名無しの侍

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「しかしなぁ・・・私は勝手な人間だ。口ではそう言って、心の内では自分を消したくないのだ。わがままな男なのだ」 まだ少し残る涙をぬぐい、まっすぐに大垣を見つめていた。 息を吸い下を向いた大垣は、自分を納得させるように何度か頷いて顔を上げた。 そして、いつものようにニッカリと笑った。 「良いじゃないですか今のままで。貴方が納得するまで、それまで、まぁ、いつになるかわかんないですけど、友として俺がそばにいますよ。だから、死んだらよかったなんて言わないでください」 「お前、行き遅れるぞ」 「平気ですよ、今時、一人で自由に生きてる人間はごまんといますから。それに、貴方が根負けして俺のこと受け入れちゃうかもしれないしね。いや、それは無いか、えへへ」 大垣はまた酒を注ぎ日向子の前に滑らせた。 日向子はその杯の底を眺めながらゆっくりと回している。 「本当に、良い時代だな。剣が強くなくとも、家が強くなくとも、女でも男でも身一つで戦える。己の能力を生かせる世界で存分に評価される。私の生きた先にこんな世が待っていたとは。私は生まれる時代を間違えたようだな」 注がれた酒の表面は、揺れるたび部屋の電気が反射している。 「何言ってんですか。貴方だって今ここで生きてるじゃないですか」 そうして二人はまた杯をあわせた。
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