侍のような女

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「山本殿、件のお礼状ができている。文箱に入れておくので良い時に持って行ってくれ。では失礼」 (やっぱ日向子さんかっこいいなぁ。超タイプなんですけど・・・) 大垣は支社から本社へ移動と同時に主任と言う肩書きがついた。平社員とあまり変わりないがいわゆる栄転というやつだ。この先の出世はある程度見えている。この会社において、入社四年目では珍しいらしい。 今時の少しほっそりとした体型で顔つきも対応も柔らかく優しいため、本社へ来た直後から話題に上ることが多い。 少し癖のある髪の毛は彼の性格を表しているようだ。 それはまるで中型のフワフワとした犬みたいに。 女性社員からランチに誘われることもあったが、全て断っている。 「大垣、お主はなぜ毎日ここで飯を食うておる」 「お弁当がありますので」 「その、幕の内のような豪勢なものを毎日食って腹を壊さんのか」 「豪勢ではないですよ。晩の残りとか作り置きとかを詰めてるんです」 「自分で?」 「もちろんです。俺、外食苦手で。味、濃いじゃないですか」 「そうだな、初めて食べたときは脳天に突き刺すようだったな、そういえば」 「へぇ。子供の頃ですか?」 「いや、目が覚めて、しばらくしてからだったな」 大垣は自分のした質問を後悔し、口をつぐんだ。 「すみません、嫌なこと聞いてしまって」 日向子の怪我はただの怪我ではなく、暴漢にあったと聞いていた。幸い大事には至らなかったが、道で倒れているところを発見され、病院に運ばれたのだった。 「気にするな、私のことは皆腫れ物にさわるようにしておるだけだ。記憶のことも、この言葉遣いも、何も言わずに遠巻きにしているだけだ。皆、優しいのだろうな」 「すみません。俺、前の正宗さんは知らないから。怪我したときのことは何となく聞いたんですけど。もし嫌なことしてたらごめんなさい」 「気にするなと言ったろう。大垣、お主は裏がない。それは隣で仕事をしていればわかる。だから、気にするな」 日向子は大垣の顔を見て、笑った。 「正宗さんはいつもおにぎりですね」 「うむ。これしか作れんのだ」 「ははは、意外ですね。あ、そうだ、これちょっと食べてくれません?いつも多く詰めちゃって結構おなかいっぱいになっちゃうんです」 大垣は箸を裏に返して弁当箱のふたの上におかずを幾つかのせた。 「嫌いなものありますか?」
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