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再びの山本
次の朝、どんよりとした顔で駅から会社へと歩く大垣がいた。
「大垣君、おはよう~。こんな時間に珍しいね」
その声は山本だった。大垣はいつもより二本ほど速い電車に乗ったのだ。
「おはようございます」
「あれ、なんか暗いじゃん。何かマズいことでもしたの?」
「山本さん、俺の状態を言語化するのやめてください」
「大垣君、君は分かりやすいのよ。尻尾が見えるよ、いつも」
「また犬ですか・・・」
「『また』って、誰かにも言われたの?」
しまった、という顔をした大垣に山本はとどめを刺す。
「正宗さんと喧嘩でもした?」
「山本さん、面白がってるでしょ。俺のことからかって遊ばないでくださいよ。」
「不憫で見てられないよ。あんなに分かりやすい態度とってる君のこと、正宗さんは気づいてないの?」
「分かりやすいって、なんですか」
「そのまんまだよ。かいがいしく毎日お弁当作ったり、いつも後ついて歩いたり、何かって言うと日向子さん日向子って、女子高生かっつーの」
「ちょっと、言葉にされると恥ずかしいですね。何というか、今はちょっとそういう感じでは・・・」
おそらく日向子がどういう状態かを把握しているわけではない山本だが、昔とは明らかに違う様子を心配して、復帰してからいつも気にかけていたようだ。
「わたしね、彼女が早く秘書課に戻ってくれないかって思ってたんだけど、会社に復帰した頃の様子を見たら、まあ、無理かなって感じがして・・・でも、君が来て少ししてからちょっと様子が変わって、ずいぶん元気になったっていうかさ、緊張がとれてきたなーって」
「四月にこっち来て初めて見たとき、眉間のしわがすごかったです」
「あれでも三月に来たときよりはマシになったんだよ。でも今じゃ全然平気になってるし、笑っているところなんて見れるの奇跡じゃないかと思ったよ」
「そんなに、日向子さんの状態は良くなかったんですか?」
「まあね。会社に復帰するまで半年かかってるから・・・」
会社の前まで来た二人は、ゆっくりと歩いた。
「大垣君、今日って部長と外じゃなかった?」
「はい、取引先に挨拶に行くのに呼ばれています」
「お昼は?」
「時間がはっきりしなかったので用意してないです」
「そう、一応、部長は昼戻りって聞いてるから、戻ったらその足で秘書課に来てくれる?」
「わかりました」
報告書かなにかあるのかな?と思い、軽く返事をした大垣だったが、取引先から戻って秘書課へ行き、山本の真意を知った。
「よし、じゃあ、行こうか」
言われるまま山本の後についてまた外へ出た。
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