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「嫌いなものありますか?」
大垣はおかずを見ながら聞いてみた。
「ああ、赤いどろどろしたものがかけてある肉の塊と細長いブリブリした肉の塊だ」
「・・・ああ、ミートボールとウインナーかな。ふふふ、大丈夫、それは入っていません。えーと、卵焼きと、ひじきの煮物と、インゲンのお浸しと、からあげ、どうぞ」
「なんと。これを自分で作っているのか?」
「はい。俺、料理趣味なんですよね。味が濃いのがダメなのもあるし、お金も使わないで良いから一石二鳥です。どうぞ遠慮なく食べてください」
おかずの乗った弁当箱のふたを日向子の前までずらし、どうぞ、と手のひらを上に向けた。
「かたじけない。頂きます」
日向子はインゲンに箸をつけ、一口入れる。
「これは・・・旨い」
次いでひじき。
「なんと・・・」
次に卵焼き。
「これは・・・卵か。甘いのう」
「甘すぎますか?」
「いや、旨い。甘みは旨味じゃ」
そして、箸が止まった。
「これは・・・」
「からあげですよ」
「うむ。知っている。鶏肉だな」
「どうぞ。からあげは俺の得意料理です。是非食べてください」
「本当にこの世はなんという贅沢な・・・」
日向子は唐揚げに向き直り、姿勢を正した。
「頂きます」
手を合わせると、ガブリ、と一口。
モグモグと一点を見つめながら食べていた日向子が、今度はひときわ大きな口を開けて残りの肉を頬張った。
口の中をパンパンにして唐揚げを頬張っている日向子を、すぐ横で大垣が愛おしそうに見ている。
「いかがですか?お味の方は」
「こんなに旨いものは初めてだ。感服仕った」
大垣の知る日向子は、毎日眉間に一筋皺をいれ、背筋を伸ばし緊張している。それは朝出社してから仕事が終わり彼女が帰るまで続いている。
しかし今、目の前にいる日向子は、まるで違う。
頬はほんのり赤く、眉間のしわは少し伸びて、口元はゆるんでいる。
言葉はいつも通りの侍のようだが、大垣にはそれも全部可愛らしく見えてしまう。
大垣はその顔をまた見たいと思った。
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