侍のような女

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次の日から大垣は多めにおかずを持ってくることにした。それは好きな料理を思いきり作れるのも理由の一つだが、なにより美味しそうに口元をゆるめる日向子をみたいからだった。 「今日は豆腐を焼いてみました。上には味噌のたれを塗って、田楽にしたんです。あと、実家から茄子が来たのでそれも」 「茄子!」 「お好きですか?」 「茄子は好きと言うよりすごい。この世は茄子を普通に食う」 「普通に?まあ、食べますよね。ちょっと割高ですけど、そんなに珍しいですか?」 「あ、いや、珍しくはない。うむ。頂きます」 「日向子さん、時々おもしろいこと言いますよね。まあ、それも良いところですけど」 「大垣、いつからその呼び方をしている?気安く呼ぶでないぞ」 「これは失敬。でもマサムネさんって呼びにくくって。ひなこさんの方が呼びやすいんです」 「そうか。なら好きにせい」 大垣の人なつっこい性格は天性のものだろうか。それとも処世術なのだろうか。いつの間にか心に入り込み、許されてしまう、不思議な男だった。 「大垣、この味噌はどこで手に入れるのだ?幾つか試したのだが、どれも辛くてな」 日向子が大垣のおかずに使われている味噌をさして言った。大垣の味噌は、豆の粒が粗く柔らかい味をしていた。 「あ、これ、自家製なんですよね。気に入ってくれましたか?」 「うむ。なんだかすごく懐かしい気がしてな」 「おうちで使いますか?もしよかったら差し上げますけど。いりますか?」 その日の帰り、大垣の家に寄って味噌を受け取ることになった。勢いで「差し上げます」と言った大垣だが、電車の中で急に我に返り背筋を伸ばした。 (まさか日向子さんを家に上げることになるとは・・・) チラリと横を見ると、手すりを握りしめ、様子の違う日向子が目に入った。 「日向子さん、大丈夫ですか?どっか具合悪いですか?」 眉間のしわは会社の時よりも深い。切れ長の目はいっそう鋭くなっている。
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