秘書課の山本

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人と交流するのは苦ではないし、むしろ好きな方だと思っている大垣だが、この山本は少し苦手だった。 秘書課の山本は、さすが頭の切れる優秀な女だ。テキパキと仕事をこなし、幹部の信頼も厚い。 日向子より二年先輩にあたり、はじめに配属されていた部署も同じだった。上昇志向の強い山本は自ら秘書課への移動を希望し、資格や試験も積極的に受けた。 後から部署の上司に推薦される形で秘書課へ行った日向子のことは、どこか牽制しているようにも見えた。 大垣は新しい大瓶を頼みグラスいっぱいに注いだ。味の濃い冷めた唐揚げを口に放り込んで、冷たいビールで流し込んだ。 いつもより少し飲み過ぎた。 打ち上げがお開きになり、それぞれ別れていく。 他部署と交流するのもあまり機会がないためか、若い社員たちは二次会へと流れていった。その中に日向子の姿はなかった。 「大垣さん、行きませんか?みんな大垣さんが来るの楽しみにしてますよ」 「あぁ、はい」 大垣は少し躊躇ったが行くことにした。さっきの山本の言葉も少し引っかかる。 (つき合いが悪いと思われるのも困るしなぁ) 山本も含め秘書課の女性と、大垣のいる企画課の社員数名が集まり、ダイニングバーへ入った。 大垣の隣にはまた山本が座った。 「大垣さんも料理するんですよね?」 世間話から、いつも弁当を持参する大垣に話題が集中した。 「マメですよね、毎日ですか?」 「いつもさ、ランチ誘ってもお弁当だからって、来てくれないんだよぉ」 「え~そうなんだ、でも料理できる男の人っていいよね」 「ねえ、大垣君の得意な料理はなあに?」 山本はからかうような目で大垣を見た。 「唐揚げと味噌汁です」 「揚げ物するの?すごいですね」 「いや、俺、外食が苦手なだけです。味が濃くて」 「若いのに珍しいね。奥さんになる人は大変じゃん、こだわり強そうで」 「よく言われます・・・」 「でもさぁ」 山本がまた口を開いた。 「大垣君、いっぱい食べてくれる子がいたら、いっぱい作ってあげちゃうんでしょ?」 大垣は苦笑いだ。 山本はやっぱり苦手だな、と思ってしまう。日向子に色々と世話を焼いている自分をからかっているのかもしれない。大垣は珍しくムキになってしまった。 「そうですね。俺、よく食べる女の人好きなんです。それに、俺が作ったものを旨そうに食べてるとこ見るのも好きなんで」 「そう」 山本はムキになった大垣をニヤニヤしながら眺めていた。 「えー、じゃあさ、ランチ、外行かないでたまには持参で社内で食べません?それなら大垣さんも良いでしょ?」 誰かが言った提案は可決され、来週の予定が決まってしまった。 (日向子さんとの貴重な時間が減るな・・・) ぼんやりと、グラスの酒を飲み干した。
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