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第9話 青信号
ビートルは赤信号で止まる。15年前、二人が住んでいた辺りだ。千鶴はせり上がる想いを上手くいなせないまま窓の外を見た。懐かしい店がまだ残っている。二人の思い出の数々がまだ残っている…。
健が千鶴の方を振り向いた。
『元に戻らないか』
健の唇がまたそう動く。せり上がる想いが溢れ始めた。千鶴は答えられず、代わりに呟いた。
「葵が日向のこと、好きになりそうで…」
葵が千鶴の腕を掴む。
「ちょっとお母さん、日向クンのこと呼び捨ては無いでしょ」
しかし、それには構わず健が千鶴に返した。
「そりゃまずいな。『好き』の種類によるんだけど」
「え? 意味、判んない」
日向と葵が目を丸くしている。
千鶴は溢れる想いを噛み締めた。自分自身の深層、15年の歳月、健の顔の皴。いろんなものが入り混じり、目の奥に涙がにじむのを感じた。千鶴は何回か瞬きすると、健に声を掛けた。
「もうすぐワーゲンのお店あるでしょ。あそこ、入ろう」
信号が青に変わった。
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