第8話 サイテイの理由

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第8話 サイテイの理由

 後部席で葵が千鶴に心配そうに聞いた。 「お母さん、道、知ってるのかな」  運転席から健が返す。 「大体判りますよ。坂巻の千草町の方ですよね」 「は、はい」  葵は返事しながら戸惑った。日向クンには住所は言ってないのに、千草町ってなんで知ってるんだろう…。隣を見ると千鶴はどうってことない顔をしている。お母さんの仕事も知ってるっぽいし、どうなってるんだろう。疑問に思いつつ再び前方を見た葵は、ダッシュボードについている一輪挿しに気が付いた。 「お母さん、すっごーい。ちっちゃい花瓶がついてる。ほら」  千鶴が前を見ると、ダッシュボードのグリルに小さな一輪挿しが結わえられていた。前はこんなの無かったな。また健が答える。 「ああ、これね。今日、小さなひまわりがあったら頂いて、ここに活けようと思ってたんですよ」 「へぇ、おじさん、ひまわり好きなの?」 「元々はそうでもなかったけど、お母さんの影響で好きになっちゃった」 「お母さん?」  千鶴は少し俯く。葵は益々混乱し、その言葉をスルーすることにした。 「おじさんもひまわりの迷路、得意なんですか?」 「いや、僕はあまり歩けなくてね」  健は言葉を濁し、日向がその後を継いだ。 「父さん、足の病気だったんだ。足の癌」  千鶴は息を呑んだ。それでこんなに痩せちゃったのか。  すると、健が前を向いたままボソッと言った。 「黙ってて悪かったんだけど、それで昔、ひまわり畑で君に追いつけなかったんだ」  え? その頃から?     千鶴は頭が真っ白になった。15年が一瞬に変わる。もう葵も日向も眼中になかった。 「そんな…。なんで言わなかったのよ」 「お腹の二人に影響あると困るし、必ず治すって自分で決めてたから」  葵と日向はきょとんとしている。 「お母さん、日向クンのお父さん、知ってるの?」  千鶴は小さく頷いた。
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