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二人が今にも泣き出しそうな顔で自分のことを見ていたので、シュゼットは、無理矢理笑顔を作り、できるだけ明るい声で言った。
「良かったわ、ミルッカやオラヴィがいてくれて――。一緒にお父様やお母様のことを思い出して、懐かしむことができるから。あなたたちが、わたしの思い出話に付き合ってくれるおかげで、きっと二人の魂も慰められているはずよ。ミルッカもオラヴィも、いつもありがとう!」
「お嬢様……、そんな、もったいない……」
「旦那様も奥様も、たくさんの人に尊敬され慕われておりました。懐かしんでくださる方は、きっと大勢おりますよ! この屋敷の外にならね――」
「ミルッカ……、オラヴィ……」
シュゼットが、伯爵邸の外へ出ることはめったにない。
ラペルトリー伯爵からは、「シュゼットは、社交界にデビューしていないし立派な婚約者がいる身なのだから、やたらに人前に出て愛想よく振る舞う必要はない」と言われていた。
だが、さすがに十六歳ともなれば、シュゼットにも外出を禁じられる本当の理由がわかってきた。
(お義父様は、わたしにお金をかけるのがお嫌なんだわ。それに、どうやらラペルトリー伯爵家には、わたしに知られたくない事情がいろいろとあるらしい。お義父様は、わたしが誰かからそれを聞いてしまうことをとても恐れている……。だから、わたしを屋敷の外へ出したくないのよね)
シュゼットにつきっきりのミルッカはともかく、伯爵家の執事として町に出ることもあるオラヴィは、きっと伯爵の隠し事にも気づいているはずだ。
だが、シュゼットに余計な心配はかけまいと、自分の胸にしまい込んでいるに違いない――。そんなオラヴィのけなげな忠誠心を思うと、シュゼットの胸は切なくなった。
神妙な様子で見つめるオラヴィに、シュゼットは感謝の気持ちを込めて言った。
「そうね、オラヴィの言うとおりだわ。公爵様との婚礼の日を迎えて、わたしがこの屋敷を出られることになったら、昔馴染みの人たちに会って、また想い出話に花を咲かせることができるかもしれないわよね。公爵様が、その程度にはお心の広い方であることを祈りましょう!」
それを聞いたオラヴィは、ここへ来た用件を思い出し大慌てで話し出した。
「おお! うっかりしておりました、シュゼット様。先ほどその公爵家からお使者がおいでになったのです。おそらくは、ご婚礼に関わるお話をしにいらしたのだと思います。伯爵様から命じられ、シュゼット様をお呼びに参ったのです。すぐにお着替えになって、伯爵様のお部屋までおこしください!」
(公爵家からの使者? いよいよ、婚礼の日取りが決まったということかしら? それとも――)
突然の知らせにシュゼットは呆然とし、すぐにはその場から動くことができなかった。
ことの重大さに思い至ったミルッカは、オラヴィと二人でシュゼットを抱えるようにして、大急ぎで離れの部屋へと連れ帰ったのだった。
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