8 葦毛の子馬亭

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 妖精と一緒に広場まで戻り、周りの建物をじっくり眺めてみると、すぐに「葦毛の子馬亭」の看板が見つかった。  シュゼットが、ほっとして宿の扉の前に立ったときには、すでに妖精は姿を消していた。 「あら、いらっしゃい、灰頭巾さん! お食事? それとも、お泊まりですか?」  突然開いた扉の向こうから、鮮やかな赤毛の美女が元気に声をかけてきた。  髪に巻いたスカーフや洗いざらしの前掛けは、いかにも宿屋の女将らしいのだが、長いまつげに縁取られた緑色の瞳は妙につやっぽくて、シュゼットですらどきどきしてしまった。  ようやく声を振り絞り、遅ればせながらあいさつの言葉を口にした。 「あ、あの、こんにちは――。わたしは、レステと申します。ご覧の通り灰頭巾となって巡礼の旅をしています。先ほど立ち寄った神殿で、こちらの宿なら巡礼者も快く迎え入れてくださると聞いたので、一晩お世話になれないかと思ってうかがいました」 「まあっ、フリッツ神殿長様が!? もちろん、礼節をわきまえたお方なら、どなたでも喜んでお迎えしますよ! わたしが、女将のイルゼです。うちはね、心地よさと清潔さが売りの宿なんです。それから、食事の美味しさもね! レステさんも、安心してお泊まりくださいな!」  イルゼは、シュゼットの手を取ると、二階の奥のこざっぱりした部屋に彼女を案内した。窓から中庭が見下ろせる、眺めの良い部屋だった。  窓枠や床がよく磨き込まれていて、確かに心地よく清潔な宿だとシュゼットは思った。  それにここは――、はっきりと妖精の気配が感じられる場所だった。 「どうです? 気に入っていただけましたか?」 「ええ。素敵なお部屋を用意してくださり、ありがとうございます!」 「フフッ! 古い宿ですけどね、手入れは怠っていません。それにね、うちの厨房には赤頭さんが住んでいるんですよ!」 「えっ!?」
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