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本棚に追加 肩に置かれていた手は、いつの間にか背中に回され、シュゼットは公爵に抱き寄せられていた。公爵は、王都への二人旅を想像したのか、うっとりした顔で腕の中のシュゼットを見つめた。
シュゼットは、びっくりするやら恥ずかしいやらで、思わず大きな声で叫んでしまった。
「で、で、で、でも、公爵様は、この城を離れられないのではないですか!?」
公爵は、シュゼットの体を少しだけ離して、彼女に笑顔を向けながら優しく語りかけた。
「大丈夫ですよ。春になれば、冬館へ行っている家臣たちもこの城へ戻ってきます。わたしが王都へ出かけても、何の問題もありません。それに、あなたが妖精の王のお心を癒やしてくれたから、当分の間は、王のご機嫌をとるというお役目からも解放されることでしょう」
「公爵様は、本当にわたしと王都まで旅をするおつもりなのですね?」
「ええ。王都へ行き、陛下にもう一度あなたとの婚約を報告するつもりです。心配はいりません。妖精殿を守るレドレル公爵家を絶やすわけにはいかないので、王家が我が家の婚姻や養子縁組に口を出すことはありません。レディ・シュゼット、どうか、あらためてわたしと婚約してください!」
「え、え、え、えええーっ!?」
戸惑いを隠せぬシュゼットをもう一度しっかり抱き寄せながら、夢見るような顔で公爵は話を続けた。
「どうか、わたしの申し出を受け入れてください。せめて、雪解けを知らせる空見草の花が咲くまで、この城にいると言ってください。何かしたいのなら、書斎や書庫を自由に使って、王国の気候や地理、特産物のことなどを学んではいかがでしょうか? 公爵夫人になるにしても行商人になるにしても、きっと役に立つはずです。わたしは、冬の間にしっかり体を鍛え直すことにします。シルヴォや私兵団長から武術をあらためて習い、あなたを守る力と技を身につけます。二人で旅立つ日に備えてね――」
シュゼットは、何も言えなかった――。
王都に送ると言われたときは、シュゼットの身を案じての親切な申し出ぐらいに思っていたが、公爵は、本気でシュゼットとの結婚を考えているらしい。
シュゼットが、公爵の魂を助けるために奔走したことへ、そこまでして報いたいということなのかもしれない。
シュゼットは、申し訳ない気持ちになって家臣たちの方へ目をやった。
だが、彼らはなぜか嬉しそうな顔でシュゼットの方を見ていた。
(どういうことなの!? どうして、誰も公爵様を止めたり諫めたりしないの!? とんでもないことを言いだしているのに――。まだ目覚めたばかりだから、遠慮しているってことかしら? じゃあ、とりあえずわたしも、できるだけ穏やかに返事をしておいたほうがいいわよね?)
シュゼットは、心を落ち着けて静かに公爵の腕へ手を添えると、ゆっくり彼から離れた。そして、不安そうに小首を傾げた公爵に、できる限り愛らしい笑顔を作って告げた。
「わかりましたわ。空見草の花が咲くまで、こちらに置いていただきます。冬の間、仰せの通りここで様々なことを学びながら、先のことをじっくり考えてみます。お返事はそれからでよろしいですか?」
シュゼットの言葉に、公爵は満足そうにうなずいた。
そして、もう一度彼女を抱き寄せようと腕を伸ばしかけたところで、それまでおとなしくしていたヴァルプーリが一声吠えて、公爵よりも先にシュゼットへとびついたのだった――。

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