運命の印

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 男性と手を繋いだことはない。もちろん隣をこうして歩いたこともない。 鷹臣は銀座で文乃を喫茶店に連れて行った。そこで初めて冷たいアイスクリームというものを食べた。 冷たいのにとても甘くて舌の上で溶けていく感覚が非常に幸せだった。  それから女性が好きそうな店に文乃を連れて行き、洋装に似合うヘアアクセサリーを購入してくれた。 二人は客観的に見れば夫婦に見えるだろうか。 帰り際、文乃は勇気を振り絞って訊いた。 「鷹臣様、聞きたいことがあります」 「なんだ」 「…鷹臣様は妖をお嫌いですか」 鷹臣は文乃の手を離さずに文乃の目の奥を覗き込むようにじっと見つめる。 「久我家にとって妖は仲良くするような対象ではない。それに俺は昔友人を妖に殺されている」 「…え、」 「久我家はずっと妖をそういう対象として接してきた。だが…―」 鷹臣は地面に落としていた視線を上げる。 「俺は妖に助けられた経験も多々ある。婚礼の義を終えれば、当主になる。その際に反対はあるだろうが妖に対して寛容にあるべきだとする提言をするつもりだ。ただし、久我家の仕事は変わらない。役割も変わらない。悪さをする妖は討伐する対象であることには変わらない」  並々ならぬ決意を秘めた瞳が文乃へ移る。 鷹臣は友人を妖によって殺された過去がある。それなのに恨みを妖へ向けずに現状を理解し自分の役目を全うしようとしている。 それが難しいことだというのは文乃でもわかる。 目頭が熱くなるのがわかった。 ―この人とずっと一緒にいたい そう強く思った。 「鷹臣様を少し誤解していたようです。ごめんなさい」 鷹臣は柔和に微笑む。
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