運命の印

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 屋敷を出てすぐに橋がある。そこをゆっくり歩きながら周囲を見渡しているとトン、と前方から来た人と肩がぶつかった。すみません、とすぐに謝罪をするが顔を上げるとそこには見たことのある男性が驚いたような表情をして文乃を見下ろしている。 「あ、」 そうだ、数日前に出会った長髪の男性だ。目元のホクロを覚えている。女性のような中性的な顔立ちの品のある男性だ。 「あぁ、あなたは先日―」 男性も同じように文乃を見て反応した。 「以前はありがとうございました」 「いいえ、大丈夫でしたか?」 「はい」 「それはよかった。僕はちょっと用事でこのあたりに来ていたのですが」 「私はお野菜を買うついでに散歩をしておりました。これも何かの縁ですね。あ、私文乃と申します」 「僕は西木野良一といいます」  苗字を言わなかったのは、咄嗟に梅本と言いそうになったからだ。 久我と名乗ることが出来るほどまだ自分が妻だという自信がなかった。普段はポジティブに物事を考えることの出来る文乃だが、さすがに今回の結婚はそうはならない。 西木野という名は聞いたことがあった。確か、西木野家も梅本家や久我家には劣るが名家だったはずだ。 「あれ、首元から血が出ていますよ」  良一がそっと文乃の首筋に触れた。こんなにも至近距離で男性に触れられることなどなかったからビクッと大きく体を揺らした。文乃の反応を見てすっと直ぐに手を離す。 「失礼、すみません。女性に失礼でしたね。あ、これ使ってください」 良一が袂からハンカチを取り出す。そして会釈してから去っていく。その後ろ姿を見ながら借りたハンカチを首元に当てる。確かに血が滲んでいた。 「…いい人ね。でも、どこで怪我をしたのかしら」 文乃は首を傾げながら目的地へ向かう為、歩みを進めた。
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