幻の“国王候補”

2/2

20人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
 そう語った後、ドゥンさんは諦めた様子で「まあ、こんな小さな島で隠れて暮らすことなんてできないでしょうがね」と言った。  現在の国王候補は若い順に十代のチギと二十代のアヴノ、四十代のカゲキの三人だ。国王候補が十年に一度のペースで生まれることを考えると三十代の国王候補がいても良いのではないか、とは前々から疑問に思っていた。空白の世代に国王候補は確かに存在していたのだ。  幻の国王候補。どんな人物だったのかもっとよく知りたくなり本土の図書館に問い合わせた。観光客を巻き込んだ放火事件であれば記事が残っているかもしれない。  調査の結果、確かに御斗田島でホテル火災は実際に起こったようで、当時の地域紙に小さく記事が載っていた。が、「一名が行方不明」とあるだけでそれが国王候補であったかはわからなかった。  前項「はじめに」でも述べたとおり、御斗田島の歴史を克明に記した文献は存在しない。それは意図的に隠しているというよりは、固有の種を守るために閉鎖的な文化を維持した結果こうなってしまったという印象だ。国王はこの現状に危機感を覚え、筆者に「島のすみからすみまでくまなく見て全てを記述して欲しい」と依頼したのだろう。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加