最後の子ども

1/2

20人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ

最後の子ども

 筆者が御斗田島に滞在して二ヶ月ほど経った頃、ドゥンさんから「王の子どもが生まれたから見に行かないか」と誘われた。島の南側に唯一の病院があり、王とその子どもはそこで入院しているのだという。  単為生殖で増えるオメガというだけでも驚くべき生態だが、さらに驚くべきは胎児の発達する速度だ。大体三ヶ月ほどで一五〇〇グラムほどになりその状態で出産する。普通の赤ん坊で言う所の低体重児だが、王の子どもとしてはこれが通常の大きさなのだという。  低体重児といってもそれだけのスピードで胎児が発達するのだから産む側の体の負担は相当大きいものになる。王自身は取材を受けても良いと言ったが、赤ん坊の様子を見るだけにした。ドゥンさんも王の体調を案じてか「そうした方がいいと思います」と言った。  後に王から届いた文書によれば、彼はこの子どもを最後に産むのを辞めるらしい。年齢的な事情もあるのだろう。王が産むこの島最後の子どもだ。  王にとっては普通のことだが、やはり一五〇〇グラムという体重は赤ん坊には小さすぎる。子どもは保育器の中で慎重に、大切に世話をされていた。大人の両手にすっぽりと収まってしまうくらいの、丸裸の小動物のような赤子だった。極端に小さいことを除けば普通の子どもと変わらない。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加