七月九日土曜日

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七月九日土曜日

(以下未整理の記録)  午後八時。東港付近を歩いていると閉店した商店の自販機の前に座る古川氏(※本土からアヴノに会いに来ている四十代会社員)と遭遇した。声を掛けると「樋口さん」と応じた。  繁華街には行かないのかと訊ねると古川氏は「アヴノは今日体調不良で入店しないらしい」と言った。残念そうな表情だった。  そこにたまたまカゲキが通りがかった。「夜は野生動物が歩き回ったりして危ないですよ」とこちらに声を掛けてきた。古川氏の存在に気付くと、見慣れない顔のせいかやや緊張気味に頭を下げた。  アヴノの客だと僕が説明するとカゲキは「ああ」と頷いた。微妙な表情。「体調悪いんだって、残念」と古川氏が苦笑するとカゲキは心配そうに「そうなんだ」と呟いた。  カゲキがアヴノの住まいに様子を見に行くと言うので古川氏と同行した。アヴノが住んでいるのは繁華街の外れの小さな平屋のアパート。呼び鈴が壊れていたのでドアを叩いたが返事がなかった。  古川氏が「においが」と言った。オメガのフェロモンを感じ取ったらしい。僕は鈍いのでよくわからなかった。発情期で動けないのか?カゲキがドアを叩きながら呼び掛けたが返事がない。何度か体当たりして無理やりドアを開けた。
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