八月一日月曜日、八月二日火曜日

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八月一日月曜日、八月二日火曜日

 思いの外早く神馬氏と別れてしまったので島の北側を散策してみた。夜は野生動物が出るから危ないとのことだったのでライトで足元を照らしながらガサガサとわざとらしく音を立てて歩いた。  小さな鳥居の前。嗅覚の鈍い僕でも感じる甘いような妙なにおい。オメガのフェロモンだと気付くのに時間がかかった。  鳥居の向こうには小さな祠。その後ろに人がうずくまっていた。ボロボロの毛布で身体をすっぽり覆っている。呼吸音が聞こえて人だとわかった。その人は僕に気が付くとこちらを見向きもせず、毛布を被ったまま這って距離を取った。  大丈夫ですか、という呼び掛けには答えない。僕が近付くと遠ざかる。怯えたように呼吸が震えている。僕は追いかけるのを辞めて一旦住まいに戻った。  本土の友人にすぐに連絡を取って抑制剤の手配を頼んだ。友人の仕事は早く翌日の午前中に御斗田島まで来てくれた。ランチを奢った後友人はすぐに本土へ帰った。  その足で昨夜の祠へ向かった。毛布を被った人と思しきものはまだいた。遠ざかろうとする毛布に「抑制剤を持ってきた」と言った。 「僕はルポルタージュを書くためにここに滞在しています。取材を受けると約束してくれれば抑制剤を渡す。どうですか?」
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