証言

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証言

(以下、未整理の記録)  カラドは比較的裕福な家で育てられた。派手ではないが不自由のない暮らし。周囲の人々も優しく幸せな日々を送っていた。  その日は県知事が休暇を利用して御斗田島にやって来るということで、歓迎のためにホテルのロビーにいた。観光客は島の人間の美しさを期待する。こうして時々カラドが客をもてなすことは珍しくはなかった。  事件は一瞬のうちに起きた。灯油缶を持ってホテルに入ってきたひとりの男が自らに中身を掛けると火をつけた。火だるまになった男は県知事に覆い被さるように倒れ、カラドも巻き込まれた。  火はあっという間に燃え広がりロビーをほぼまるごと焼いた。経験したことのない熱さと息苦しさの中何とか這って火のない所を探した所までは覚えている。次に意識がハッキリしてきた時には見知らぬ部屋に横になっていた。  カラドを家事の現場から連れ出し火傷を治療したのは身体の大きな中年男性だった。彼はカラドにほとんど声を掛けなかった。カラドは彼を命の恩人だと思ったが、決して善人ではなかった。治療の甲斐あって一命を取り留めたカラドの身体を見て彼は「くそっ」と悪態をついた。 「こんな不細工になっちゃ使いもんになんねーな。死なせときゃ良かった」  カラドはこの時点ではまだ鏡などで自分の姿を確認していなかったが、彼の言葉でもう自分は美しくはないことがよくわかった。
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