八月九日火曜日

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「どうして?交雑したのかい?」  カラドが苛ついているのを感じる。神馬氏は気付いていない。ヒヤヒヤする。僕は「彼は国王になる気がないんだ」と口を挟んだ。 「ふうん」と神馬氏は呟く。「それなら僕の家に連れて帰るよ。それならいいだろ」 「いい加減にしろ」カラドが声を荒げた。「もう構わないでくれ」 「どうして?少なくとも毎日風呂に入れるしベッドで寝られるよ。悪い話じゃないと思うんだけどな」  カラドが立ち上がった。左手で神馬氏の腕を掴んで林の奥へ進んでいく。辿り着いたのは彼が赤ん坊を埋めた穴だ。掘り返して神馬氏を突き飛ばすように穴の前に立たせた。 「自分の産んだ子ども。少なくとも五体はある」  神馬氏は何も言わない。カラドが続ける。 「それでも自分を連れて帰りたいか?」  小さく息を吐く神馬氏。しばしの沈黙。 「樋口君、彼の産んだ子どもがどういう状態か説明してくれないか」  意味がわからなかった。 「済まないね、見えないんだ」  そう言われても理解できなかった。 「樋口君は気が付かなかった?」 「気が付かなかったです」  神馬氏はフッと笑って「ドッキリ成功だね」と言った。開襟シャツを捲るとハーフパンツのゴム部分に伸縮三段式の白杖が差し込んであった。
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