アルファの“期待”

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 言われてみれば、と思うことはいくつかある。まず最初に、名刺を受け取らず連絡先を耳で聞いて確認したこと。そもそも印字された字が読めなかったのだ。夏祭りの会場で道行く人にぶつかりながら歩いていたのも納得できた。そういう違和感を、飄々とした人間を演じることで「この人はそういう性格だから」で済まされるように浪本人が仕向けていたのだ。  数日後、神馬氏は国王選出を辞退することを王に告げた。事情を話すと王はあっさりと神馬氏の申し出を受け入れた。 「元からこの島のオメガを選ぶ気なんてなかったんだ」と神馬氏は言った。 「力試し、って言えばいいのかな。父親の教育が通用するのかやってみたくなった」  筆者に声を掛けたのは王の応接室で紙にペンを走らせる音が気になったから。言葉を扱う仕事をしている人間ならあらゆることを言葉で丁寧に説明してくれるのではないかと思ったのだそうだ。  最後に彼はこうも言った。 「少しだけ期待していたんだ。僕の目が見えなくても、それが遺伝的要因だとしても、それでも貴方との子孫を残したい、と誰かに言って欲しかった」
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