神馬浪に宛てた手紙

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神馬浪に宛てた手紙

神馬浪様  清秋の候、神馬様におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。  先日、取材のご協力を頂きましたルポルタージュの原稿が出来上がりましたのでお送り致します。ご確認頂ければ幸いです。  神馬様とカラド様は如何お過ごしでしょうか。生活は落ち着きましたでしょうか。本土はこれから秋が深まり少しずつ寒くなりますので、特にカラド様には初めての厳しい季節になるかと思います。体調など崩さないよう元気に過ごして頂ければと存じます。  最後に、少しだけ私の話をさせてください。  私は二十代の頃高熱を出した後遺症で嗅覚が鈍っています。食べ物の味はよくわからないし、オメガのフェロモンも余程強くなければ感じ取れません。  神馬様の「少しだけ期待していた」という言葉を聞いて、私は図々しくも「自分と同じだ」と思ってしまいました。  私も御斗田島に上陸する時に、期待していました。こんな足りない自分でも、オメガとアルファの繰り広げる物語に関われるのではないか、と。歴史的瞬間の目撃者になれるのではないか、と。  結果、私の期待は空振りに終わりました。誰も争わず、誰も勝利しなかった。でも、何かが確実に変わりました。私の期待どおりにはならなかったけれど、皆が少しだけ穏やかな場所に収まることができたのだと思います。  どうか、御斗田島の人々と、それに関わる全ての人が幸せになりますように。私はそういう想いでこの本を完成させます。  長々と失礼致しました。それでは、またいつか。 樋口馨 (全文点訳の後、発送済)
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