上陸

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 次に訪れたのは王の住居だ。遠くから見てもよくわかる立派な洋館で、背の高い門の向こうに広い庭があった。門から建物が遠い。咲き誇るアネモネの花にアゲハチョウが止まっている美しい光景が広がっていた。年に数回この庭を島民に開放してくれるのだとドゥンさんは教えてくれた。  応接間に通されて少ししてから王が現れた。ドゥンさんと同じくらいの年齢に見えるが、実年齢は一五〇歳だったはずだ。身長は一九〇センチメートルはある。黒髪で肌はどちらかといえば白い。これが四割の島民の「基本型」なのだ。  声は重く潤いがある。口調は優しい。訛りはなく綺麗な言葉遣いだった。王の風格が滲み出ている。「この島は閉鎖的故に文献がほとんどない。島のすみからすみまでくまなく見て全てを記述して欲しい」と言っていた。取材にはできる限り協力するし島民にもそうするよう伝えているとのことだった。  閉鎖的だったにも関わらず何故今になって?と訊ねると「私の寿命が近いからだ」と答えた。王の寿命は約二〇〇年。島の今後を案じてのことらしい。  王の居住地の後は学校に行った。小学生と中学生が同じ校舎で学ぶ。全校生徒は一〇〇人程度で王の子どもも移住者も関係なく一緒に通っている。丁度小学校低学年の下校時刻で賑やかな声が響いていた。  島の南東にある平野には畑が広がっている。カゲキはその畑を島民と力を合わせて管理しているという。畑からは小中学校がよく見える。夜になると繁華街の方の空がぼんやり明るくなるとドゥンさんは言った。
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