カゲキ

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カゲキ

 その日の夜、畑の近くにある一軒家を訪問した。国王候補とは思えない質素な佇まいの木造住宅にカゲキは育ての親だという年老いた女性と暮らしていた。こちらの名前と取材の主旨を説明するとカゲキは「よろしくお願いします」と深々と頭を下げた。 「新しい王を選ぶと聞いた時には、いよいよかと思いました」とカゲキは真剣な表情で述べた。 「王になったらこの島をもっと良くしたいです。子どもが健やかに育つような島にしたい。俺は王になるために子どもの頃から勉強も頑張ってきた。アヴノのような美しさはないしチギみたいに可愛げもない。でも新しい王としてアルファに選ばれる自信はあります」  そう主張する一方、心配事もあるようだ。 「王になった後も農業を続けられるかが心配です。お母さんと離れて暮らすようになるかもしれないと思うと寂しい。今までどおりの生活はできないんだろうなと思っています」  カゲキを育てた“母親”からも話を聞いた。彼女は五十年ほど前に夫婦で御斗田島に移住してきたという。
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