雨後のタケノコにょきにょきカグヤ

1/1
前へ
/1ページ
次へ
昔々、竹取の老夫が竹林に向かうと、にょきにょきとタケノコが生えていた。 「昨日まで珍しいくらい雨が続いていたからな。雨後のタケノコとはよく言ったものだ。こんなにたくさん生えてくるとは!」 一人では刈り取れないほど大量に生えていたため、妻や近隣の村人を呼び寄せてみんなで収穫していった。料理が得意な者が腕を振るい、その日はタケノコ料理の宴となった。 数日後、老夫は再び竹林に向かった。 タケノコはほとんど刈り尽くしていたが、代わりに不思議な輝きを放つ竹を見つけた。慎重に竹を割ってみると、中から現れたのは小さな美しい女の子だった。 「なんと、これは竹の中から生まれた天使か。先日のタケノコはこの子が降り立つ予兆だったのかもしれん。大切に育てなければ。」 老夫は彼女を「かぐや姫」と名付け、妻とともに我が子のように育てた。 かぐや姫は時を経るほど美しい女性へと成長していった。 彼女は時折、不思議な振る舞いをみせた。夜には天を物憂げに眺め、雨の降った翌日には険しい顔で竹林を睨みつける。何故そのような表情になるのか老夫は気になってはいたが、年頃の娘の心情を問うのも野暮だろうと考え、黙って見守っていた。 ある時、長い雨が続いた。老夫はふと懐かしくなり、 「かぐや姫。お前が竹から生まれた時もこんな雨が降った後だったよ。」 と声をかけた。するとかぐや姫はみるみる険しい顔になり部屋に引っ込んでしまった。難しい年頃なのだろうと察し、老夫もそれ以上は言わなかった。 翌日の雨上がり。かぐや姫は老夫と妻の部屋に現れて、神妙な面持ちで語った。 「昨日は不躾な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした。」 「いや私の方こそ気配りが足りずにすまない。最近、悩んでる様子だったのでつい声をかけてしまった。」 「はい。実はそのことでお話がございます。私はどのように生きればよいかずっと悩んでおりました。しかし昨日、生まれた頃のお話をしていただいたことで、これまでの多大な御恩に気づき、ようやく決心しました。」 かぐや姫は身を正し、改まって言った。 「私は竹から生まれたと思われておりますが、本当はそうではないのです。私は月の民。竹を宿り木にしてこの地に身を若返らせて転生してきました。」 「おお、月の民とな。やはりその美しさは人のものではなかったか。して、なにゆえこの地に?」 「心してお聞きください。私は、私たち月の民は、この地を支配するためにやってきました。月から見えるこの地は水と緑に恵まれた豊穣の大地。我が物にせんと攻め入る目的だったのです。」 あまりの話に老夫と妻はあっけにとられたが、かぐや姫は話を続けた。 「ですが、私はこの地を好きになりました。私はこの地を守るため、かつての同胞たちと戦う覚悟を決めました。月の戦士たちは歴戦の猛者ばかりですが、我が身に代えても守り抜きます。」 「信じられない話ばかりだが、お前が言うならその通りなのだろう。とはいえお前にだけすべてを背負わせるわけにはいかん。私たちにもできることがあるはずだ。そもそも彼らはいつ、どうやってこの地に攻めてくるんだ?」 「それがまだわからないのです。実のところすでにやってきてもおかしくないのですが、未だ彼らを見かけません。私と同じように、恐らくは同じ時期に転生してきてるはずです。雨に混じって若返らせた魂をこの地に降ろし、竹の根に命を宿らせ、竹の成長とともに力を蓄えていく手筈だったのですが・・・何かお心当たりありませんでしょうか。」 老夫はかつて村の者たちと味わった、雨上がりのタケノコ料理を思い出した。 (おわり)
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加