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「……で、ウチの協会長が本当にいけ好かないヤツで……って、聞いてます、勇者さま?」
「ぅん……聞いてるよ……聞いてる……」
むにゃむにゃと、最後の方は不明瞭な声に飲み込まれた返事。
酒を飲みながら会話に興じているうちに、いつの間にかのリュートの顔は真っ赤に染まり、目はとろんと蕩けていた。
まだグラスで二杯しか飲んでいないというのに、とマイラは心の裡で驚く。
……どうやらリュートは、随分と酒に弱かったらしい。
普段の姿からは考えられないような脱力した姿勢で、リュートはずるずると机に突っ伏していく。
「もうマイラも成人かぁ……どんどん大人になっていくなぁ……」
「なんですか、そのお年寄りみたいな感想は」
苦笑いで突っ込むが、実のところその言葉にマイラの心は弾んだ。なにしろ最初にフラれた時の断り文句は、「子供過ぎる」だったのだから。
大人として、一人前の淑女として見てくれるようになったのだとしたら、それは紛れもない進歩だ。
「どんどん成長して……いつの間にか僕に敬語を使うようになって……寂しいよ、僕は」
「本当に礼儀知らずでしたね、私は」
かつてリュートに対してぞんざいな言葉遣いで接していた頃のことを思い出す。
そんな身の程知らずな過去の行動に恐縮してマイラは身を縮めたが、彼は「違うんだ」と、机に伏せたまま呟いた。
「僕はその反応が嬉しかった。君だけが、目の前の僕を見てくれていたから。……だって、そうだろう? 周囲が見てるのは僕じゃない、『勇者さま』という存在だ。それは僕じゃなくたって構わないし、魔王を斃した後の僕に誰も用なんかない――」
「っ、そんなこと……!」
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