1 六年目の星夜祭

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 ――初めて聞いた、彼の本音。  今まで知ることのなかった彼の悲痛な呟きに、慌てて否定の声を上げた。  気怠そうに彼は顔を上げて、まっすぐにマイラの視線を捉える。 「君だってそうだろう、マイラ。君も……今じゃもう、僕のことを『勇者さま』としか呼ばないじゃないか」 「……っ!」  思わず息を呑んだ。  ――初めて彼を「勇者さま」と呼んだ時のことを、唐突にマイラは思い出した。  あれは魔王を斃して三年ほど経った頃だったろうか。  久々に会った彼に成長したところを見せたくて、わざとらし過ぎるほどの丁寧な敬語を使って「勇者さま」と会話をした自分。 「なんだ、マイラ。そんな他人行儀になっちゃって」  振り返ってみると、その時の彼は確かに寂しそうな微笑を浮かべていた。 「私も成長したんですよ、勇者さま。淑女として求められる態度とマナーってヤツです」 「前みたいに、普通に話しかけてくれれば良いのに」 「もう子供じゃありませんから」  つんと顎を上げて、そっけなく返す。  ……その言葉に嘘はなかったが、すべてが本心という訳でもなかった。  救国の英雄であるリュートは、誰にとっても特別な存在だ。  皆が彼を重んじるし、丁重に接する。  そんな彼を呼び捨てにして敬語も使わずざっくばらんな態度で接するのは、魔王討伐の仲間を含めてもマイラしかいなかった。  当時のマイラは、それが彼との特別な関係を示しているようで嬉しかったのだ。  周囲が彼女を諌めることもあったが、マイラはむしろ見せつけるようにそんな態度をひけらかしていた。  ――でも、ある日気がついてしまった。  敬語を使おうと使うまいと、リュートにはどうでも良いことなのだと。
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