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彼は誰に対しても平等に一線を引いていて……、そしてその距離を縮めることはなかった。マイラも、その中の一人に過ぎなかった。
リュートのことが好きでずっとその姿を追っていた彼女は、それ故にそんな彼の本音を悟ってしまったのだ。
言葉遣いを変えたら少しは気にしてくれるだろうか、というのは一種の賭けであった。……でも、彼は。
「そっか……大人になったんだね、マイラは」
そう言って首を傾げると、それ以上何も口にしなかった。
だから賭けに負けたことを察しながらも、それ以上は何も思わずにマイラは「勇者さま」呼びを続けていたのだが……。
――どうして、今更。
呆然と、マイラは酔っぱらったリュートの姿をただ瞠目する。
「ねぇ、昔みたいに名前で呼んでよ。マイラ……」
――彼は、そんな切ない顔で私を見るのだろうか。
「……っ、リュー、ト」
以前も呼んでいたはずなのに、久々に口にするその名前は妙にマイラの喉に絡まった。マイラの掠れた声が、二人の間の空気を震わせる。
その声を聞いて、眠たげだったリュートの目がゆっくりと開かれる。酒の所為か、少し潤んだ黒曜石の瞳。
――二人の視線が、絡み合う。
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