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2 好奇心は魔導師を滅ぼす
――長い夢だった。
今のを人は走馬灯と呼ぶのだろうか。
虚ろに目を開いたマイラは、そんなことをぼんやりと考える。知らないうちに、唇には微かな苦笑が浮かんでいた。
――振り返る記憶がこれまでの人生ではなく僅か半年前のリュートとのやりとりとは、なんて長年片思いを拗らせた自分らしいんだろう。
ずるずると地面に崩れながら、星夜祭のことを思い出す。
結局、研究が立て込んでしまったマイラは、あの後リュートと会っていない。彼が一体何を気に病んでいるのかは、わからないままだ。
こんなことになるくらいなら、もっと早くに会いに行っておけば良かった……そんなことを思うが、もう遅い。
後悔先に立たずとは、よく言ったものだ。
だからこそ、死の間際の幻であってもリュートの顔をもう一度見られた幸せに心が安らいだ。
ほぅ、とため息をついたマイラの唇に、仄かな微笑みが浮かぶ。
「あーあ、やらかしちゃったなぁ……」
その苦い呟きはもう声にならず、ただグプ、とマイラの口の中に血の味を広げるだけであった。
抉られた右脇腹はもはや痛みを伝えることすら放棄していて、血をとめどなく流し続けている。今はもう、ひたすらに眠いだけ。
ずるずると地面に崩れ落ちながら頭上を見上げる。
乳白色の空間に浮かぶ丸く切り取られた小さな青い空は片雲のように遠く、頼りない。
元の場所に戻ることのできる、唯一の出入り口。でも魔力の尽きた彼女に、あそこまで手を伸ばす術はもう、何ひとつ残っていない。
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