1 六年目の星夜祭

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 今夜は、一年に一度の星夜祭。  死者となった魂が、星と一緒に地上に還る日。  ひと晩中降り注ぐ光は雪のように柔らかく、蛍のように仄かな輝きで生者の幸福を願う。  星降る夜空を一緒に眺めた相手とは、永遠に結ばれる――そんな言い伝えのある星夜祭は、想いを告げる絶好のタイミングとして広く親しまれている。  そしてマイラもまた、その星夜祭の言い伝えにあやかる一人であった。  星夜祭の告白も、今年でもう六度目。……といっても、相手は毎回変わらないのだけれど。 (勇者さま、どうしてるかな……)  この先に住まうのは、魔王を(たお)した救国の英雄、勇者である。  だというのに、周囲の木立はあまりに静かだ。落ち葉に紛れて見失いそうな細い道を進み、マイラは慣れた足取りで彼の住む屋敷を目指す。  その落ち葉を踏む彼女の足音だけが、周囲の静寂を埋めている。  ――仲間たちの誘いや王からの提案を断って、魔王を斃した彼はこの寂しすぎる場所に引きこもってしまった。  いっさいの栄誉に目をくれずに、隠遁(いんとん)生活を送るにはまだ若すぎる身体で。  ふぅ、とマイラは思わず息をついた。なにしろ僻地すぎるのだ、ここは。  本来であれば、魔導師であるマイラにとって移動は簡単だ。転移魔法陣を描けば一発なのだから。  しかし、ここは森全体に魔術の通用しない結界が張られている。  その所為で、目的地まではてくてくと地道に歩いていくしかない。  安易にやってくる者がいないようにしたい、というのが結界を張った勇者の言であった。  このとんでもない規模の結界には、天才魔導師として名を馳せているマイラですら目眩を覚えてしまう。彼は本当に、何もかもが規格外の能力を持っているのだ。
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