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「……生きてる」
寝台の上で目を開いてマイラがまず思ったのは、そんな感想だった。
だって幻想域の、しかもドラゴンの巣だ。普通に考えて、助かる訳がない。
誰も知らない場所で死にゆく定めにあった自分が、どうして生き永らえることができたのか……不思議に思ったところで、ぼんやりと見上げた天井に見覚えがあることに気がつく。
(あれ、ここって……)
「マイラ!」
はっきりしない頭が思考をまとめるより先に、切羽詰まった声と共に勢いよく扉が開いた。
「良かった……気がついたんだね、マイラ。怪我の調子はどう? 痛みはない? 僕が誰かはわかる?」
――矢継ぎ早に質問を投げかけながら心配そうにマイラの顔を覗き込む、もう二度と見られないと思っていた黒曜石の瞳。
「リュー……ト?」
掠れた声でなんとか彼の名前を呼ぶと、マイラはゆっくりと寝台から身体を起こした。
まだ視界はフラつくけれど、抉られたはずの右脇腹に痛みはない。
問題ないとマイラが頷くと、リュートの顔が泣き笑いに歪んだ。
「マイラ……!」
喜びの感情を爆発させるように、リュートは勢いよくマイラの身体をすっぽりと抱きすくめる。
思いがけない事態に、動き出していたマイラの思考がピシリと硬直した。
咄嗟に反応できずにいる彼女を置き去りに、リュートは抱き締める腕を緩めないままひたすら同じ言葉を繰り返す。
「うん……生きてる……良かった……良かった……」
しばらく大人しくその腕の中に囚われているうちに、マイラはそんなリュートの身体が細かく震えていることに気がついた。
(魔王との決戦を控えた時でさえ、震えていなかった彼が……?)
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