1 六年目の星夜祭

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 そうしてどれだけ歩いたことだろう。  さすがにうんざりし始めた頃にようやくオレンジ色の屋根見えてきて、マイラはホッと安堵の息を漏らした。  逸る足取りで進み、扉につけられたノッカーへと手を伸ばす。  ちょうどそのタイミングで、彼女の到着を予見していたように目の前で扉が開いた。 「久しぶり、マイラ」  頭上から降ってる、懐かしい柔らかな声。  その声に勇気づけられて、マイラが顔を上げる。途端、この国では珍しい黒い瞳と目が合った。 「……っ!」  目が合った瞬間、久々の想い人との再会にマイラの頭は一気に茹で上がってしまった。  何を言うつもりだったかも忘れて、ただ呆けたように彼の前で立ち尽くすことしかできない。  その一方で、役に立たないマイラを置き去りに目だけはやたら貪欲に眼前の視覚情報を取り込んできた。  覗き込むような姿勢で、少し困ったような笑顔を浮かべる勇者リュート。  相変わらず、彼は見上げる程に背が高い。この一年でマイラはだいぶ背が伸びたつもりだったけれど、残念なことに身長差はあまり変わっていないようだ。  瞳と同じ色の黒いふわふわとした髪は、以前会った時よりも少し伸びただろうか。  柔らかなその髪の手触りは、きっとマイラだけが知っている。  でもそれ以外、彼は本当に変わっていない。少し切れ長の黒い瞳も、控えめな鼻も、薄い唇も……。  実際のところ、顔立ちだけで言えば彼はどちらかというと凡庸な方だ。  それでも、マイラは百人の人混みの中からだって彼を見つけられる自信があった。恋する乙女は鋭いのだ。
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