11人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
それからも、リュートの症状は一進一退の状態が長引いた。
熱はなかなか下がらず、せっかく食べたものを戻してしまうこともしばしば。
節々が腫れる所為で指先に力が入らず、スプーンを持つことすら儘ならない日々が続いた。
……それでも。
リュートは諦めなかった。決して心折れなかった。
食欲がなくても、体力をつけるために必死で栄養を咀嚼した。
何度床に落としても、スプーンやペンを持って指先の感覚を取り戻そうと訓練を続けた。
そして、やがて杖を使って歩けるくらいまで回復してからは、脂汗が滲むまで歯を食いしばってリハビリに臨んだ。
――ああ、そうだ。彼はこういう頑張りができる人だった。
看病をしながら、散歩の付き添いをしながら。マイラはその姿を見守りつつ、泣きそうなくらい懐かしい感覚に浸っていた。
リュートは確かに才能に恵まれ、英雄として選ばれた人間ではあったけれど。
でも、その力の使い方を最初から身につけていた訳ではなかった。その裏には彼の並々ならぬ努力が、献身があった。
まだ年若い彼の身体に背負わせた勝手な使命、世界の命運……それでも彼は腐ることなく鍛錬を重ね、やがて魔王を討ち滅ぼす偉業を成し遂げた。
マイラはそんな彼の姿に惹かれて、恋に落ちたのだ。
そのひたむきな性格は今もなお、眩いほどにリュートを輝かせていた。
最初のコメントを投稿しよう!