1 六年目の星夜祭

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 ――魔王を屠った伝説の勇者、リュート。  今やこの国で誰ひとりとして知らぬ者の居ない彼だが、実のところ彼はこの国の人間ではない。  そしてもっと言えば、この世界の人間ですらなかった。  彼がここにやってきた発端は、今から八年前に突如として現れた「魔王」という存在にある。  無尽蔵に魔物を生み出し、大地の生気を根こそぎ枯らし、永遠の夜を(もたら)す存在――魔王。  その圧倒的な力を前に、人々は当時なす(すべ)もなく逃げ惑うことしかできなかった。  もちろん、人間側にも対抗策はあった。それが魔王を斃すための神器、聖剣である。  しかし、ここ誤算がひとつ。  恐ろしいことに、どれだけ手を尽くして探しても肝心のその聖剣を扱える者がいつまでも現れなかったのだ。  ――このままでは、この世界は滅びてしまう。  追い詰められた王家は、そこでとんでもない手に打って出た。それこそが、異世界召喚……リュートがこの世界にやってきた召喚魔術である。  聖剣を扱える者として一方的に異世界から呼びつけられ、魔王を斃す役割を押しつけられた異邦人……それこそが勇者リュートと呼ばれる存在の真相であった。 (普通、縁もゆかりもない土地に突然呼び出されて、相手の勝手な都合で『魔王を斃してくれ』なんて言われても反感覚えるだけだよね……しかも勝手に呼びつけておきながら帰す手段はないとか……)  そんな身勝手な要求にあっさりと頷いてくれた彼に、今更ながら尊敬と感謝の念を覚える。  当時幼かった自分はそのありがたさがわかっていなかったが……。
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