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1 六年目の星夜祭
――もうすぐ、星が降る。
沈みゆく夕陽を背に受けながら、マイラは足を急がせていた。
夕陽を浴びた山の木は朱に染まり、吹く風も冷たさを纏っている。
もう秋も終わる時分だ。
日が沈み始めると、周囲の気温は一気に下がっていく。
ぶるりと身体を震わせて、マイラは新調したばかりのローブをかき寄せた。
その拍子に懐の手鏡が指に触れる。
目的地まであと少しだというのに、つい足を止めて鏡を取り出すとマイラは何度目かになる身だしなみチェックを始めた。
……うん、大丈夫。
鏡に映る自分の顔を見て、力強い瞳で頷く。
何度も丁寧に櫛を通した明るい赤い髪のポニーテールには、少しも崩れがない。
昔から続けている髪型だけど、いつの間にかまとめる髪も随分と伸びてきた。それが自分の成長に感じられて、マイラは軽く唇を綻ばせる。
少し視線を下げれば、薄い肩を覆うすべすべの光沢がある紺色の新しいローブが目に入った。
この色合いがこの国最高峰の賢者を示しているなんて、きっと彼は知らないだろうけど。
でも色が違うことだけでも気づいてくれれば良いななんて、袖についた落ち葉を払い落としながら考える。
もう一度鏡に目を戻せば、鏡越しの自分が向ける力強い紫の瞳と目が合った。
少しだけつり目の、強い意志を宿した瞳。人によっては「生意気だ」と言われることもあるけれど、彼はその目を「綺麗だ」と言ってくれた。
……そんな思い出が、マイラの歩みを勇気づけてくれている。
――うん、今日の私のコンディションはバッチリだ。
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