葛藤

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「十数年前の流行病も、まずは高熱が出た。その後、赤い発疹が腹部に現れる。それが痛くて痒いらしい。その発疹が引けばいいのだが、発疹が手足にまで広がってしまうと、手の施しようがなく命を失ってしまう。そういう病気だ。今でも特効薬はない。発疹の痛みと痒みをおさえる薬しかなく、あとは本人の体力次第だそうだ」  それはエセルバードが生まれる前の話である。  そしてサライアスもカーラも、その流行病で大事な人たちを失っているし、ゼクスもそうだった。  そこまで話を聞いたエセルバードは、ちぎったパンを口の中に放り込んだ。一口かむと、パンの甘さがじんわりと口の中に広がっていく。気づかぬうちにお腹は空いていたようだ。もう一口、パンを食べる。 「姫様も、あの流行病に冒された者の一人だ」  咀嚼していた口の動きを止めた。パンを飲み込めない。 「姫様は、奇跡的に回復された。だから、今日も大丈夫だろう」  その言葉は、サライアス自身が自分に言い聞かせているようにも聞こえた。  この離塔には、流行病で何かを失った者たちが、心を寄せ合って生きているようにも見える。
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