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右手にあのときの感触が蘇ってきた。ラクシュリーナが凍りかけの通路で足を滑らせ、転びそうになったとき、とっさに助けたのはエセルバードである。
サライアスからは「よくやった」と褒められたし、エセルバード自身もそう思った。守るべき主人に怪我もなく、心から安堵した。それよりも、彼女を支えるくらいの力がついていたことも、嬉しく思った。
あのとき触れた彼女のぬくもりが、まざまざと右手に思い出される。
その想いを断ち切るかのように、もう一度、本に視線を落としかけたとき、誰かが階段をあがってくる気配がした。隣の部屋の扉が開き、室内へと入ってくる。
誰が誰であるか、その物音から容易に想像がつく。
なぜか心臓がうるさく鳴っていた。
「あ、義父上」
サライアスがこちらにやってきたのを見つけ、勢いよく立ち上がる。
「どうかされたのですか?」
いつも余裕のある笑みを浮かべているサライアスの様子がおかしい。口を開きかけて、また閉じた。あげく、右手で口元を隠す。
何か言いにくい話でもあるのだろうか。
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