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そうして夫婦となった二人は、仲睦まじく暮らしていた。
ささやかで、朴訥で、何よりも幸福な日々。
妻も自らが天使であった事もやがて忘れた。
しかしある夜。
妻は偶々、目覚めてしまったのだ。
夫が、眠っている妻のお腹に黒酢を塗り込んでいる最中に。
この肌は透明感があり過ぎた。
清水に墨汁を垂らすように、透き通るその肌に黒酢が染み込んでゆく。
妻は理解した。
ああ夫はあの時、川上から黒酢を流したのだ。
ほんの悪戯心で、私は天界に戻れなくなったのだ。
憎い、憎い憎い憎い憎い憎い。
この浅ましい黒酢売りのせいで、私は天使でいられなくなった。
色彩は具象である。形而に堕ちた故に天使は神性を失った。
憎い憎い憎い憎い憎い………
憎い、のに。
妻は色を知ってしまったのだ。
夫の日常を、営みを、平々たるいくらでも鮮やかな色彩を、愛おしいと思ってしまった。
そうしていくらでも欲しがって、喰み舐り飲み込んだ、その果てがこの色。
全ての色彩を内包する、黒という色。
ああ、愛しい、憎い。
それは相反するはずの二つの感情。その二つは平行線で、しかし互いに触れようと、手を伸ばしてしまった。
全ての感情が混ざりあう程に、妻の身体は黒さを増した。
とても、哀しい話だ。
何より黒酢を常飲していた彼女は健康で、故に心が先に壊れた。
黒天使さんは憎む。自らに象を押し付けた黒酢を。
黒天使さんは愛しむ。自らに心を押し付けた黒酢を。
相反する二つの感情は、黒天使さんの心をいとも容易く爛れさせる。これ以降、黒天使さんの行動に理屈が伴わなくなった。
夫を滅多に分解した後、如何して生き返らないのかと、破片を縫い合わせる始末。
健康なら、夫が健康ならば、元通りになるはずなのだと、そういった生産者の願いが、このサプリを産み、そして育んだのです。
健康、健康、健康ときて、また健康。
堕天の奇行に根ざした、確かな効能。
暴飲暴食、異食もへっちゃら。
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みなさ〜ん!健康ですよーっ!
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