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「イカツミ、ノンテ、イコテゲア、イコテッノ…」
「イカツミ、ノンテ、イコテゲア、イコテッノ…」
「イカツミ、ノンテ、イコテゲア、イコテッノ…」
今年度を以て廃部の決まったオカルト研究部。
うらびれたその部室から、三つの声がこだまする。
「イカツミ、ノンテ、イコテゲア、イコテッノ…」
「イカツミ、ノンテ、イコテゲア、イコテッノ…」
「イカツミ、ノンテ、イコテゲア、イコテッノ…」
反転呪文。
彼等が独自に考案した呪術である。床に描かれた魔法陣を囲み、天の御使いを喚ぶ祝詞を反対から詠む事により、もう寧ろ悪魔が出てくるんじゃねぇかな、というやや捨て鉢なもの。
「イカツミ、ノンテ、イコテゲア、イコテッノ…」
「イカツミ、ノンテ、イコテゲア、イコテッノ…」
「イカツミ、ノンテ、イコテゲア、イコテッノ…」
割に迫真している三人。呪う声にも熱が入っていく。
なお、既にお気付きかも知れないが、彼等は余り成績がよろしくない。
「「「イナリーパ、ヤンコッ!」」」
キレイにそろった掛け声と共に、
ッスパアアアアアアァァァ…
魔法陣がまさかの発光。
「えっ、えっ?」
「まちょっ!」
「ふぁーwww」
戸惑う三人を余所に、光の中央から、人の形をした影がせり上がってくる。
『ドケダンメゴ…』
いや、影ではない。
既に爪先まで魔法陣から抜け出て、なおも上昇するその身体は、何か重大な意義を感じさせる程に、黒いのだ。
髪、体色、装衣、翼の先までも、総ての光を吸い込んでしまうような、艶のない黒色。
およそ天然を感じさせない、闇より深い、黒。
そうして、すっかり姿を現したその影は、
『カイナワマカテ……めんどくさいから普通に喋って構わないかぁ?』
割と気遣いの出来る何かであるようだ。
「あハイ…」
「すいませんなんか…」
「ぅ、美しい…」
三人組のリーダー格は、既に涙を流して陶酔している。仕方のない事だ。彼こそはこのオカルト研究部最後の部長にして、唯一のガチ勢である。
なにより、うっかり召喚できてしまったその何かは美しく、とてもグラマラスだった。
「あ、あくま……様?で、しょう、か?」
『天使だぁ、我、天使ぞぉ?』
「え?いや…」
『天の御使いって喚んだではないかぁ!』
「うぇ、はぁ……そ、ぅなんですけど…」
『仔等の呪文のせいで黒くなっちゃったんだぞぅ』
「ぇぇ……大体天使様なら上から来ないすか?」
『反対に喚ぶから下から行かなきゃってなるじゃないかぁ!』
優しい。
『下の教室から天井抜けて来たんだぞぉ、まず褒めろぉ!めちゃ褒めろぉ!』
「す、ぇぇ、すごぉい!」
「ありがたぁい!」
『あと口調崩して大丈夫かぁ!?』
「もちろんです!」
「ど、どーぞどーぞ…」
『あ、マジ?サンクス』
調子は合わせているものの、元はといえば先輩の卒業で廃部となる事きっかけの、最後の思い出作りである。
まさか喚べるとは思わず、この後どうしていいか分からない。
『で、なんかお願いある?』
フランクに言われても。天使を自称しているが真っ黒である。
当たり前のように警戒し、正直還って欲しいと言い淀むオカ研二人。
すると、今迄沈黙していた部長が、一歩前に出る。
「…………だざい…」
『ん?』
滂沱の涙を隠そうともせず、顔を上げた部長。
「結婚じで下ざいっ!」
高校受験を控える身で、随分と向こう見ずな希望進路を口にした。
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