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さて遅ばせながら、オカ研三羽烏についてである。
彼等はアニ研がなかったからオカ研に入った。一年生の頃より、校則に違反しない範囲で黒色を身に付けていた彼等は、誰も呼んでくれないので自ら『黒い一年生』を名乗っていた。
一体何故そんな自称をしていたのか。誰も興味を示さぬ中、それは彼等が三年生になった時に知れる。
『黒い三年生』
彼等はガン◯ムの大ファンだったのだ。
「ガイ◯!マッシ◯!オルテ◯!保健室にジェットストリームアタッ◯をかけるぞ!」
「おまえ誰だよ!?」
そんな訳で、縦一列になり走っている。
仕方ない。健康な中学生男子なら仕方ない。
保健室の茅野先生、通称チノちゃん先生は、おっとり美人で眼鏡で巨乳という、童貞の夢から抜け出てきた系女子なのだからして。
もはや天使の微笑みだろうと悪魔の囁きだろうと頓着しない。モテない彼等に採れる選択肢は『イエス』か『ゴー』である。
しょうがない彼等は大急ぎで保健室の前に辿り着いた。
「おい!早くノックしろ!ガイ◯!」
「部長急げ!もう四時だぞ!学校から追ん出されるまで時間がない!」
「オマエ等こういう時だけオレを先に行かせるよな!」
だが部長ここは躊躇せずにノック。チノちゃん先生とのあはーんやうふーんに対する期待が、彼の心を臆病から遠ざけた。
「せ、せせせ、せんっせぇ!」
「わっ、びっくりした〜」
どうみても健康な三人組の登場に、可愛らしく驚くチノちゃん先生。
「ちちち、チノちゃん先生!べべべベッド下さい!」
「あげないよ〜カヤノだよ〜」
「健康そうに見えるけど本当に具合悪いんです僕達ノちゃん先生!」
「組み込まないで〜カヤノだよ〜」
「ちょい寝たらすぐ帰るんで僕勃ちノちゃん先生!」
「字が違うよ〜カヤノだよ〜」
ま〜い〜よ〜。と快諾して、何故か紙コップを三つ用意したチノちゃん先生。
「経口補水液。仮病でも一応飲んでから寝てね〜」
冷蔵庫から取り出したペットボトルから液体を注ぐ。とにかくベッドに入りたい三人は、鼻息荒くそれを一気に飲み干した。
「ぐぉ?へべ…」
「何か変な味すね」
「経口補水液だからね〜」
「いや、塩味っつーか……なんか苦い?」
「最近発売されたOS-1000なの〜」
「いきなり1000いくんすか!?」
「ふふん、タシロ株のタウリンが1000億匹入っているのだから。短時間睡眠でも質バク上げよ〜」
「そもそも1に1億匹入ってたんすか?」
「それ飲めば帰るまでには帰れるくらいにはなるからね〜。さぁねろ〜」
「はぁ、へぇ…」
まぁいいか。と、三人がベッドを借りたのが三十分前。
「あらら〜起きちゃったの。普通は二時間くらい寝たままなのよ〜?」
黒酢の効果か。すっきり目覚めた三人組は、自らがパンツ一丁で、その手足がガチガチに拘束されている事に気付いた。
因みにパンツは揃いの白ブリーフ。
彼等はゴ◯ゴ13のファンでもある。
「え?え、えっ?」
「チノちゃんもしかしてそーゆー?」
「うるさいですねぇってされちゃう!」
いうほど戸惑ってない三人組に、チノちゃん先生は「もーカヤノでしょ〜?」と、管のついた針を取り出す。
「じゃあヌキヌキしようね〜。血液」
今度こそ戦慄。やはり黒天使さんは悪魔だった。あんなに黒々としておいて天使は無茶だった。絶句している三人。
「若いから1000くらいイクぅ?わぁ〜ひとり3袋だ〜」
「「「ヒェっ」」」
僅か抵抗しようともがいてみるが、
「じょ~だんじょ~だん。ねぇ血管なんだから、じっとしてないと死ぬよ〜?」
と、天使のような顔で笑うチノちゃん先生に、抵抗を諦めて身を固める。
「あふんっ」
「あっ…」
「んほっ!」
別に何の助けもなく、三人は普通に針を刺された。
血をヌかれている間、チノちゃん先生とのチークタイムが開始まる。
「先生ぇ、僕らの血なんてヌいて何に使うんですか?」
「あ、献血?寄付するとか?」
「ああ。なんか器具がそれっぽいもんね」
行いはともかく、目的だけはせめて善であってくれという、三人の願望は、
「普通に飲用ですが?」
淡くも打ち砕かれる。
「ぇ飲むの?」
「うん、というか眠剤飲んだ血なんか輸血には使えないよ〜」
「……あ、先生はバンピーナだったりですか?」
「ううん、先生はパンピーさ?趣味なの」
「あ、なんかクレンジング的なやつですか?」
「ううん、クレイジーなだけだよ〜」
「欲しかった非日常じゃねぇ!」
そうして集めた血液をそれぞれコップにあけグビッと飲むチノちゃん先生。
「うーん、いまいち」
「こんな悲しい評価ある?」
「まあいーけど」
「こんな悲しい評価ある?」
「もったいないし」
「こんな悲しい評価あるっ!?」
「ゴッゴッゴッ………んぐぅ!?」
我慢して鼻を摘まみながら血を飲んでいたチノちゃん先生が、コップを落とし突然蹲った。
「せっせんせぇぇぇ!」
「血なんか飲むからホラぁ!」
「ぺっしなさい!ぺっ!」
「ぅ………うぅ…」
バフゥ!
「おう!?何か出た!」
「黒いの出たぞ!」
「何だあれ!」
蹲ったチノちゃん先生の背中から、突然飛び出した黒い影に慄く三人。超帰りたいが手足は依然拘束されたままである。
「…………そうかっ!」
「知っているのか副部長!」
「いや知らん!」
「やめてね?」
「知らんが、だっ!今オレ達は黒酢のお陰で健康だな!」
「うん!あくまで個人の感想だけど一つ一つの工程を職人が手作業で作っているから豊富なアミノ酸がほとんど失われていないんだ!味もとてもまろやかで噎せちゃうような事もないし無理なく続けられちゃうね!お陰様で健康が維持出来るし!絶対これからも愛用するつもりさ!」
「睡眠薬が余り効かなかったって事は、既にオレ達の血中には栄養成分が注入されてる訳だ!」
「ねぇ無視しないで?」
「そしてそれを飲んでバフンッしたって事は!チノちゃん先生に取り憑いてた悪魔が黒酢の健康効果で追い出されたんだよ!」
「黒酢すげぇ!どう考えてもそうならねぇ!」
「黒酢すっげぇ!おまえ一体なに言ってんの!?」
「黒天使さんはチノちゃんに取り憑いた悪魔を祓うのが目的だったのではないだろうか!」
「なんだってー、とかいった方がいい?」
「あ、おい、抜けきったみたいだぞ」
チノちゃん先生から抜け出た黒い影が、にわかに人の形を成していく。
『天使だが?』
「オマエかい!」
「脱皮かよ!」
「なにがしたいんだよ!」
黒天使さんだった。黒天使さんだったわ。
『いや、さっきひとつ言い忘れてた事があってさ?』
「いやあの、それ後でじゃダメすか?」
「先これ解いて下さい」
「もう帰りたいんです」
『まぁお聞き…』
人差し指をピンと立て、笑顔でウィンクした黒天使さん。
『ヌかれるのは血液だから、気を付けてねっ』
「悪魔じゃねぇか!」
「悪魔だったわ!」
「悪魔だこいつ!」
こうしてパンイチで拘束されたまま、オカ研の『僕等なりに頑張った青春』が暮れてゆく…
草木芽吹く季節だというのに、夕日に赤付く、蹲ったままのチノちゃん先生の白衣と、三人の白ブリーフ。まるで恥じらう紅葉の色合いだ。そして夕闇に紫。やがて深く、深く闇に黒付き往く。
嗚呼、時はさも無情に過ぎる。決して留まらず、一日でさえ色彩は巡る。
いずれはトランクス、いやさボクサーパンツ。そう、誰しも大人になるのだ。
縫い合わせがちょっと痒い。
赤なら赤に、黒なら黒に。
しかしあくまでも、白はやはり白いのだ。
今だけは、嗚呼、大人になってしまうまでは。
総てに反射する。青春の色よ。
白ブリーフ。青春の色よ…
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