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プロローグ
■プロローグ■
「けがしてる」
ただ、それだけの言葉だったと思う。地面にボールを転がして、そいつは、不思議そうにぼくを見ていたのを、よく覚えている。
耳まででだいたい揃えた髪に、半ズボンと品のいいシャツ姿で、サイズも別に普通で、合っていて、ぼくには、そいつがただの、育ちの良い子どもに見えた。
家の向かいの庭、裏口から、突如、好奇心で、隣のお屋敷を覗きに来たぼくを見て、不審者扱いよりも、何よりも先に、包帯や救急セットの箱を掴んできて、転んで、自分の方が、血が出ているのに、気にせずに──結局は箱さえ放置で、とたとたとやってきて、首を傾げた。
「知ってる、人?」
身近に、もう一人知り合いがいるときのようなその台詞を、いったい、誰にかけたのかと思ったが、どうやら、ぼくだった。
「知らない人だよ」
とぼくは──返した。
「ふうん」
聞いたわりにまったく興味が無さそうだった。面白いと思った。なんとなく。
「触れても、いいのかな」
そいつは、ぼくの傷を眺めながら、聞いた。どうして、そんなことを聞くんだろうと思った。ホウキとか、石とか持ってきて、追い払われるなら納得なのに。怪訝な顔をしていると、ふと、何か、思い付いたような顔をされた。
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