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「──未完成なんだよ……」
まつりはぼくの肩に頭を乗せたまま、答えた。
寝ぼけていたり、眠気がある間、こいつはどこか、幼い。
「はあ……」
よくわからない。
話を聞いてほしいわけじゃ、ないのだろう。
「未完成だからっ、製造が未完成で──出来損ないで──ずっとさ。どうして、怒られなきゃなんなくて。でも、おかしいよ、出来損ないだから、出来損ないを作ったんだろ……?」
「うん、大丈夫だよ」
「だって、だって、なんで、そうじゃなきゃ、余計なものも背負わなきゃならなくて──」
「ふうん……」
よくわからないけれど、言語なのかもわからないことを、まつりはひたすらに呟く。ぼくは適当に相槌を打った。意味なんて成さないけれど。
──それが続くのかと思っていたのに、ふと、両腕を離し、何かを思ったのか、突然、ぼくを押し倒してきた。
……えーと。意味がわからない。見下ろされたまま、おろおろしていると、まつりは不意に笑った。優しく、寂しそうに、ぼくを見ていた。
「えっと……」
ぼくは何か、言おうとした。あいつは、ふふふふ、と笑った。きょとんと、それこそ、まつりがよくするみたいな表情になってしまう。
「……ふふふふっ。ああ! 怖がって、怯えた顔って、やっぱりいいなあ──見ていて幸せになれる。やっと、なにかが回復したよ」
あなたの笑顔が生きる希望です、いやあ人類の宝って、本当こういうものなんですよね。みたいなニュアンスでなんとも最低な台詞を、ほっこりした満面の笑み(……何度でも言うが、こういうやつである)で言われた。
ああ、危ない危ない、少ない語彙を駆使して慰めなくて、良かった。こんな悪趣味まで極まる必要はないのに。にらんでみる。笑っていた。
まつりは、いつの間にかローテーブルに置いていたコロッケの包みを取り、雑に破って、食べ始める。
「ちょっと、ぼくのぶんー―」
思い出したように付け足す頃には食べ終わっていた。早い、早すぎる……
「ごちそーさま!」
──なんとも幸せそうに言われるので、やっぱり結局、ぼくには何も言えない。悔しい。
「前から思ってたが、お前はぼくに、怯えて欲しいのか」
「んー? 近づいたときの反応や、表情筋を観察したい……なかなか面白い。破格のつもりだったけど、以前の反応が、思ったより気に入った」
まだ話し続けようとするので、無視して立ち上がる。
……しまった。
「うん。そうだよ」とだけ返ってくると思っていたのに、解体癖のあるやつのフェチシズム(性的倒錯)なんて思いがけずに知りたくない。
……考えてはいたが、さすがに、ぼくはこいつに甘すぎると思う。いくらいろいろあったからとはいえ、教育方針的な何かを見直すべきなのでは。まあそんなものは、ないけれど。
まつりはその間、さっさと立ち上がり、玄関に向かおうとしてから「……あ、人間を持ってくるの、忘れた」と呟いた。傘みたいに。
「忘れてろ」
投げやりにぼくが言うと、忘れたいものほど、忘れられないんだよと答えた。
まったく、その通りだ。
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