2人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんか、最近昔のことを思い出してたら、堪らなくなってきてね……はぁ。もう随分と長い間、コーダ(coda)ちゃんを使ってないし……」
うううう、と唸られた。
codaちゃんは、昔、まつりがいつも持っていた《高い方》のナイフのひとつである。
まつりは、それを思い出しながらなのか、うっとりと、息をついていた。触れた首の辺りからして、少し、脈が速い、気もする。
ぼくは微妙な気分になった。まつりは《何年も続けてきたこと》を、しないようにされている。ぼくがそう決めさせた。
そしてそれ自体が、あいつの欲求そのものである。 まつりの興味や興奮は、もともとはそこにしかなかった。すべてがそこに起因する。長い間、切り裂いて、赤い色にまみれて、唯一それを快感としているような、壊れた人形だったのだから。
──そのため、あいつには悪いことをしているのだが、道徳的に悪いことをされているより、ぼくにはマシなのだ。そんな身勝手を、まつりはわかったと、ずっと承諾してくれてきた。たぶん、ぼくのために。
ちなみに他の刺激では、既に足りておらず、この程度、でしかないようだ。
(本人談。なんで言い切れるかなんてぼくは知らないし、あいつの言うことは、6割が軽口だ)
でも、だいたいのことは確かに、なんてことない、としか思っていない。そのくらい一部の感性が堕ちている人間だったことを、ぼくはなんとなくだが、感じていた。
きっとだから、嫌悪がなかったのだ。その接触は、ぼくの意思や理解など、必要としない。『そうだった』以上に意味がない。
試したいから試しているだけ。醜い情欲も、支配欲もなく、ただ純粋な好奇心があるだけ。
そして、それが示すのは『いつ衝動的になってしまうかわからない』ということだ。癖とはいうが、まつりのこれも重度の依存なのだ。
(今まで押さえていたものが、この時期になって……)
──なんて思考を表に出さないように、気をつけながら、ぼくは言う。
最初のコメントを投稿しよう!