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……一瞬、動揺していたような。
「これ、お前のこと?」
「聞くな」
にらまれた。
とたんに機嫌が悪くなる。少しして、野菜を湯がいていた鍋の火をつけたままやってきて、ぼくから封筒を奪い、かと思えば、びりびり破ってしまった。
「ん。紙吹雪……」
封筒からはらはらと、こぼれていく紙片に、まつりはぼんやりと呟く。いや、紙だったんだぞ、それ。吹雪いてなかったんだぞ。
「明らかに、お前が破ったよな」
まつりは若干短くなった、寝癖で跳ねた髪をぐしぐしと混ぜながら不満そうに封筒の文字を見る。
「大家さんからの手紙なんて、ろくなもんじゃないからいい。暗号なんか送って来られても、地球上の、日常の言語でなかったのでって感じ」
「これ、大家さんからなのか、いいのか?」
ここは借家だ。まつりのツテで、通常より安く借りている一軒家。──っていうか、なんで暗号。よくあることで、お茶目な人なのだろうか。
バラバラに破れた紙を、貼りなおし、ぼくも改めて眺める。文面はこうだ。
『(1=ABC…)>≡4>。>2.43』
「……なんて読むんだ?」
「ふむ。いち、が、えーびーしーになりますーかな。この数字に意味なんてない」
そう言われたので、ぼくは《安心》して『形』をたどることが出来た。
「……ああ。じゃ、DEAD。DR.ABって、何だ?」
「知らなーい。なーんか、今回薄いな。手抜きなのかなー。これだけでどうしろっていうんだよー。前みたいにー超鬼畜な暗号連想100面クロスとかないのー? 想像力がかけてるし、こういうタイプは、苦手だよー」
なんだその凄まじそうなの、と一度聞きかけたが、やめておく。大家さんが全く想像出来ない。いつか、商人だと聞いたが。それさえ本当という確信がない。
まつりは散々文句を言い始めたと思いきや、下の方に書かれた『待っている』に目を留める。
「待っていられても、そういう期待には応えたくない、かなあ。勝手だよ、まったく……」
お前が言うのかよ、と、思ったがぼくは言わなかった。つまり、そこからまだ、何かしなければならないのだろうか。日時とか、場所を割り出すようなことを。
DEAD。DRAB
果たして丸は、区切る以外に意味があるのか?
少し大きい気もするが、手書きだからだろうし……
DEADだと思うが、これも手書きだから見方によってはDが、Oな気もする。
時間と日付……いや、場所? 文面が短く、どこまで何を表しているか、わかりにくい。点なのか、インクが跳んだのかわかりにくいものは、どうすれば。
「な、お前はどう思──」
聞こうと、文章から顔をあげてみたら既に、いなかった。鍋の火を、付けたままだったのを見に行ったらしい。
これも、相変わらず。
……行動が唐突で、読めない。
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