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1:A定食、待ち合わせ
「放課後、空いてる? 15時くらいー」
本来の《朝ごはん》を食べながら、まつりは言った。いつも通りに、ぼくを不思議そうに見ながら。こいつは、なぜか朝から食欲に溢れている。
ご飯、味噌汁、玉子焼き、コーンスープ、ハンバーグ、たこ焼き、おひたし、ガトーショコラ。そして大量のマカロニサラダ。
(全部、今食べたいものなんだろう)
まつりは一人では、外出しない。できると言えばできるのだが、知り合いがそばに居なければ、帰って来られなくなる可能性があるのだ。だから、いつもこの家にいて、やむを得ない場合に、ぼくに聞いて、連れ出す。
「ああ、まあな……だいたい暇だし、部活もしないし」
席につきながら言うと、首を傾げながら、ぼんやりとじゃ、付いてきてー、と、言われた。
「……どこにだ」
「んー? 候補が、ありすぎんだよです。一番近い候補に行って、いなかったら帰るよ。面倒だし。当てなきゃいけないわけじゃないよね。なんにもかかってないみたいだし、やる気がでませんー……」
眉を寄せながら、そう答え、玉子焼きを頬張る。その際に、やたらと、箸で小さく切るのは習慣らしい。薄口醤油を付けて食べている。これも習慣らしい。《あの場所》でも、そうだったのだろうか。
話し方に中途半端に敬語が混じるのも、なんというか、名残だ。あの、要塞みたいなお屋敷が脆くも崩壊する前の。壊れていた時代の。
そして、今でも縛られている世界への。
「あれ、解けたのか?」
「いやいや解くまでもないよ。時間、って書いてあったし。残りが場所だ」
……ん? ああ。少し考えて、なんとなく、納得する。
「Aの隣が、反転するのか」
聞いてみたが、まつりは黙々と、ガトーショコラとご飯を交互に食べていた。
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