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肉食女子の憤り
そんな日々が2ヶ月ほど続いた、ある日の休日。
新からは連絡はない。
なので今日は、少し遠い場所にある輸入品も扱うオシャレスーパーでの買い物を実花は楽しんでいた。
「あ、アンチョビペースト買っておこうかな~今日はパスタでも……って、あ」
「あ」
新が黒髪長髪の女子に、腕を組まれて歩いていた。
2人で楽しい買い出し~お買い物~という感じ。
「ふーん」
若くて可愛い、ほんわか清純雰囲気の女の子。
「新くん、今日の夜はぁ~なに食べたい? 見て~こんな食材もあるんだね」
キャッキャと楽しそうだ。
新は明らかに、焦った顔をしている。
「あーら~~!? 佐々木さん~~こんにちはぁー!! どうもーーー!!」
実花は、わざとに声をかけた。
「ど、どうも」
「こんにちはー。えー新くんのお友達さんですか?」
女の子が驚いた顔をする。
そして恥ずかしそうな照れ笑い。
「いえ、会社の関係ですー」
「そ、そうなんですね! いつも新くんがお世話になっております!」
「あ、ナナちゃんがそんな礼言わなくていいから……」
新は更に焦った顔をする。
「あ、やだ私ったらごめんなさい~!」
ナナちゃんは、顔を赤くして笑う。
何故に照れるのか。
「おほほ、邪魔したみたいですね~あはは、楽しそうですね~じゃあ失礼しまーす! さようならーー!」
「あっ……」
笑顔で会釈して離れる。
新が何か言いたげだったが、追いかけてくることはない。
自炊でもしようと思ってスーパーに来たのに、テキーラと中華惣菜セットを買って帰った。
1人で散々飲んで食い散らかして、酷い胸焼けがした。
次の日の夜。
新からの電話だった。
『あのさ、実花。昨日の事なんだけど』
「なにー? 彼女いるなら言いなよー」
『いや……誤解』
言い訳するような態度に、イラッした。
「あのさー! 私が若いカップルの前で怒り狂って、あんたを刺し殺すとか思ってんのー?」
『……違うって』
「ただのセフレでしょ?私達」
『……セフレ?』
「でしょ? 彼女できたからセフレ解消~! 終わりでいいじゃん? 別にうちに来なければいいだけーでしょ!!」
そう言い放ってからズキンと心臓が痛んだことに、実花は動揺する。
『……そっか……わかったよ……』
それだけで、電話は切れた。
ムカついて、テキーラロックをがぶ飲みしてベッドに入った。
「あーセフレいなくなっちゃった~でもいいや! 今度は年上がいーな! 別部署の課長さんとか、いいかもー! ガキなんてもういらなーい!」
一人でバカみたいに声に出して言った。
寝ようとするが、新の姿がチラチラとチラつく。
今ごろあの黒髪とセックスしているのか!?
「あーなんかムカつくっっ!」
課金ガチャを回すと激レアが出たが、イライラは収まらない。嬉しくもない。
また起きてテキーラロックを飲み干す。
テーブルの上に、新が買ってきたスマホゲーの攻略本がある。
ゴミ箱に思いきり叩きつけて捨てた。
少し経ってから、また拾って本棚の見えない隙間に入れた。
眠りそうな瞬間、涙が出るのがわかった。
◇◇◇
次の休みの前日の夜。
新しい街でバーの開拓に出ようと、思い切りオシャレをして駅前に繰り出す実花。
1人でも気にせずバーに入り、カクテルを頼む。
イケメンのマスターと話は盛り上がり、隣の渋いお兄さんからも話しかけられた。
これは良い感じ! と実花は微笑む。
実花は『新ざまーみろ! あんたなんかお呼びじゃない!』と内心で笑ってやった。
でもまた思い出してる事実が胸に刺さって、バーテンダーに強いのください! と注文する。
大丈夫~? と隣のお兄さんが気にしてくれた。
その時電話がかかってくる。
スマホを見ると、新だった。
無視しようとしたが、かなり長い間鳴っている。
一度バーから出て、ビル内のトイレの前で電話に出る。
『あー実花?』
「なに?」
『なにって…』
「元セフレが何の用?」
『あー……じゃあセフレだから、セックスさせてくんない?』
「はぁ!?」
『最後にセックスしてお別れしよーぜ』
「なに言って……」
『俺の突き、最後に味わいたくないの?』
ぶっ!! と吹き出して笑い飛ばした。
「それは、あんたの方でしょ? 私のフェラと締まりが欲しいんでしょ?」
隣にいたお兄さんがトイレから出てきたところで、会話を聞かれてギョッとした顔をされてしまった。
『じゃあ、そういうことでいいからよ。今から行くから』
「私、飲みに出てるし」
『はぁ? どこだよ? 迎えに行く』
新の声が大きく強くなった。
「別に帰るなんて言ってないし」
『どこの店だよ、言え!』
「な……っ」
『言え』
新の迫力に押し切られ、ぶつぶつ文句を言いながらもビルの下で実花は新を待った。
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