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肉食女子のお引越し
派手系肉食女子の土田実花(つちだみか)――28歳。
アパレル関係に勤めており、この春に初めて地元を離れる転勤辞令を受けた。
「引越し、つら~~~~い!」
仕事をしながら必死に荷造りを続けた日々。
そして雨の中の荷出し。
ホテルに泊まってからの、今日は新居で荷受けの日だ。
「荷造りでネイル折れるし……最悪。今日はさっさと終わるといいけど」
何もない部屋で待っていると、マンション下にトラックが停まった。
引っ越し屋の制服の男達がズラズラと出てくるのが見えて、チャイムが鳴る。
「はぁーい、今日はよろしくお願いしまーす」
「よろしくお願いします!」
金髪に近い茶髪の男が、帽子をとって挨拶してきた。
長身で、眉毛もキリッとしててガッチリしてて……ザ・男!
顔も堀が深くて結構イケメン。
ピアスのセンスがいいなと思った。
最近は職場での髪の色やピアスやネイルも割りと自由になってきていて、この引っ越し業者もそういう会社らしい。
なのでチャラい感じなのかなと思っていたら、髪もピアスも関係なくテキパキ働いてリーダーのようだ。
年配のおじさんや、もっと若い子達に指示をしている。
「んじゃ、テレビ先に運ぼうかー」
率先して重い物を持ち上げ、指示を出して作業する。
たくましい腕の筋肉に、少しドキッとした。
ああいう男とセックスしたら凄そう……と実花は思う。
実花は自覚ある肉食女子だ。
一人暮らしの少ない荷物。
あっという間に、引越しは終わってしまった。
友達もいない街に、一人残される寂しさがじわりと胸に広がる。
「ありがとうございました~仕事早くてもう終わっちゃいましたね」
「ありがとうございます。ではここにサインをお願いいたします!」
ニコニコと感じも良い。
名刺を渡されるわけでもなく名前もわからない。
名前知りたいな~と思う。
「あの~お名前聞いてもいいですか?」
肉食女子は行動に躊躇ない。
知りたかったら聞くのである。
「あ、はい。僕、佐々木と言います。また段ボール取りに伺いますんで」
少し驚いて名前を教えてくれた佐々木。
佐々木何君かまでは、聞けなかった。
◇◇◇
「あ~~~~もう無理。お腹空いた」
その日はごちゃごちゃの部屋で片付けに奮闘している。
料理ができるほど片付いてもいないし元々自炊派ではない。
22時過ぎになってから、閉店間際の近所のお弁当屋に行ってみた。
「えーっと唐揚げ弁当と海苔弁当と豚汁で。はーい、お願いしゃーす」
金髪に近い茶髪のお兄さんが先に注文していた。
振り向くと、昼間の引越し屋のお兄さんだ。
「佐々木さん」
「えっ」
「あ、あの昼間に引っ越しで来てもらった土田です」
「あ、あーそうだ。そこのマンションでしたね」
私服だとまた雰囲気が違う。
ラフな格好でより男らしい。
佐々木は店内で待つようで、用意されている丸椅子に座った。
実花はのり弁当を頼んで、それから思い切って佐々木の隣に座る。
「少しは片付きました?」
やった! 話しかけてくれた! と心の中でガッツポーズする実花。
「あはーまだまだですね」
「お姉さん、お仕事で? 転勤?」
「そう、明日からもう仕事~片付くまでどれだけかかるかー」
「大変ですねー」
「佐々木さんも今忙しいでしょ」
「うん。今日は早い方~飯食う暇もなくて、腹減りましたよ~」
あははっ!!と笑う顔が可愛かった。
ダメならダメで~断られたら縁がないってこと! と実花は肉食を発揮する。
「あの、私この街にまだ知り合いもいなくて~佐々木さん、お友達になってくれませんか?」
「えっ」
少し驚く顔をする。
「あ!結婚してた!? お弁当たくさん買ってたし……」
「まさか! 独身! あれは全部俺の分だから! いーっすよ! 会社にはもちろん秘密でね」
「やった!嬉しい」
「じゃPLINEで、いっすかー」
「うん! 家、近いの?」
「近いわけでもない。この弁当屋美味いから常連なんですよ」
弁当屋に感謝!
お互いスマホを出してメールアプリのアドレス交換をした。
それが二人の出会いだった。
『忙しいから、すぐは返信できないけど』とは言われたが、1日に1度は必ず返信があった。
実花も忙しい日々だったので、特に気にはならない。
佐々木は新(あらた)という名前だった。
佐々木新23歳。
なんか名前も若いよねぇ~と実花は返信しながら思う。
部屋は順調に片付いていき、段ボールの回収も頼んで
新が来てくれた。
他にも人がいるので目でお互い合図して笑った。
そろそろ誘ってみようかな? と実花は『休みの日なにしてんの?』とメールしてみることにした。
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