都市伝説

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「もしもし、飯田?」 「もしもし、香川か。どうした、こんな夜中に」 「うん。ごめん、ちょっと電話したくなってさ。今、ちょっといいか?」 「ああ、いいよ。まだ起きてたから。で、なんだよ」 「うん、あのさ。ついさっき、2時ごろ小宮から電話があったんだけどさ。あいつ、夜中にネットで昔の映画見てたんだって。それは、怪人と名探偵が対決するっていう、いかにも古典的な雰囲気の映画だったらしいんだけど、丁度それを見てたら、黒マント姿の怪人が鳴り物入りで登場するシーンが出たわけさ」 「まあ、そういう映画なら、当然そうだろうな。いかにもお約束って感じの演出だろうな」 「うん。それでさ、それを見てた小宮は、思わず”黒マント、だっせえ”とか画面に向かって、悪口を呟いちまったんだって」 「なるほどね。まあ、いかにもコテコテな演出だったらそういう言葉も出るだろうな」 「……ってお前、覚えてないの?」 「覚えてないって何よ」 「ほら、俺らの高校で流行ってた都市伝説でさ。怪人黒マントってやつ。もう忘れた?」 「おお、あったなあ。すっかり忘れてた。全身黒ずくめで、真っ黒なマントに身を包んだ神出鬼没の怪人黒マントって殺人鬼がいて、夜中の二時に黒マントの悪口を言うと、それを言ったやつのところに必ず現れる、とかいうやつだろ?」 「そう。小宮は、まさにそれをやっちまったわけさ。あいつが呟いたのは画面の中の怪人の衣装についてのコメントだったんだが、それでも黒マントの悪口を言ってしまったことにはなるわけだ。それで、あいつ段々怖くなってきて、俺の所に電話してきたんだ。話してるうちにどんどん怖くなって、最後には”どうしよう、黒マント、本当に来るのかなあ?”とか言ってすっかり怯えちまっててさ」 「あはははは。なに、小宮、本気にしてたの?あいつのビビリも筋金入りだな。しかし、そんなことで電話されたお前もいい迷惑だよな」 「うん。最初はそう思った」 「最初?」 「うん、まあ、聞いてくれ。勿論俺も、頭ごなしに”そんな話でこんな真夜中に電話してくんなよ!”って言ってやったよ。小宮も素直に”うん、そうだよね。ごめんね”とか謝って、電話を切った」 「なら、いいじゃん。ごく普通の話じゃないか」 「ところがさ。俺、ちょっときつく言い過ぎたかなと思って、今度はこっちが気になっちまってさ。小宮に謝ろうと思って、それからすぐに折り返し電話したんだ。ところが、何度鳴らしても出ないんだよ」 「……それは、単に呼び出し音に気づかないとか、そもそも消音にしてるとか、そういうことじゃないの?じゃなきゃ、お前に怒鳴られてちょっとムカついてて、それで出ないって可能性もあるかもな」 「ならいいんだけどさ。いや、あいつが俺に怒ってるってのはいい話じゃないが、それでもまだましっていうか」 「何よ、まだましって」 「……まさか、本当に黒マントがあいつの所に……」 「はははは、お前まで何言ってんの?黒マントなんているわけないじゃん。」 「でも、あいつが全然電話に出ないんで、なんだか妙に不安な感じがしてきてさ」 「あはは。わかった。じゃ、俺が今からあいつに電話してみるよ。俺からの電話なら多分出るだろう。それで話聞いてみるよ。何なら、お前が謝ってたって話も伝えておくよ」 「有難う。飯田、お前本当にいい奴だな」 「じゃ、今から小宮に電話する。しばらくしたらそっちにかけるわ」 「もしもし、香川?」 「おお、飯田か。どう、小宮出た?」 「やっぱり出ない。全然出ない」 「……じゃあ、やっぱり、黒マントに……」 「馬鹿な事言うなよ!そんなものいるわけねえじゃん!あんなもん、くだらねえ都市伝説じゃねえか」 「なあ、飯田。もうあんまり黒マントの悪口はやめた方が」 「なんでだよ。俺は全然平気だぜ。あんなもん、いるわけないだろうが。ばかばかしい。しかも、話としても、いかにもチープな出来栄えじゃねえか」 「だから、もうそこら辺でやめたら…………もしもし……もしもし、飯田?……もしもし、飯田、聞いてるか?……もしもし、おい、飯田!返事してくれよ!もしもし、もしもし?……」 「いひひひひひひひひひひひ」 「わーっ!」 「あはは、びっくりしたかな?」 「なんだよ、もう。脅かすんじゃねえよ!」 「いやいや、これは失敬。あまりにも君が不安そうにしているので、つい、脅かしてしまったよ、ひひひ。ところで、香川君、少々お時間を頂けないかな」 「あー、びっくりした。なんだよ。急に口調まであらたまって」 「いや、小宮君の反応とか、色々お話ししたいことがあるのでね」 「小宮の反応?だって、電話は……」 「まあ、とにかく至急お会いしてお話ししたいんだ。今からそちらにお邪魔していいかな?」 [了]
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