第1話 大火傷

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第1話 大火傷

「きゃあああ! クリスティナお義姉(ねえ)様、大丈夫ですか?!」  悲鳴を放つ義妹レジーナの横で、私は顔に浴びた薬液に、絶叫を上げていた。  ◇  ライネス公爵家の長女、クリスティナ・ライネス。  私は大勢の使用人に囲まれ、貴族家の厳しい教育を受け、身分に相応(ふさわ)しくあれと求められながら、日々を過ごしてきた。    私の母が亡くなると、父は外で作った義妹を公爵家に入れた。  愛人との間に、子があったらしい。  私に比べると、義妹はずいぶん甘く(ゆる)く育てられていた。  将来、王家に妃として売り込むために、商品価値を上げる必要があった私に対し、義妹には公爵家で婿を取らせる予定だったからだろう。    レジーナは、その差を不満に思っていたらしい。  そして、留学していた王太子殿下の、帰国祝いパーティー前に事件が起こった。  私は屋敷のメイドに、強烈な薬液を浴びせられたのだ。  私の顔は無残にも焼けただれ、二目(ふため)と見られない容姿となった。  凶行に及んだメイドは取り調べ前に自害してしまったが、だからと言って私の(ただ)れた皮膚が戻るわけではない。  この時の私は、王太子妃候補として名が挙がっていた。  そしてライネス家は、この縁談を是が非でも(まと)めたがっていた。  けれども私の顔は崩れ、到底人前には出れない状態。  王太子殿下の妃候補として、父はレジーナを伴い城に上がり、殿下と義妹の婚約がまとまった。  一方私は、公爵家にとって価値のない荷物となり果てた。  表向きは病気療養として領地に送られることになったものの、実際は人目について噂になることを恐れた父によって、公爵邸の片隅に押し込められた。  本当に領地に送られていたら、また気分も違っただろうに、陰鬱とした物置のような、暗く狭い部屋に閉じ込められ、父は私を労わるでもなく、責めた。  "お前に隙があったから"。  "せっかく金と時間をかけて育てたのに、肝心な時に役に立たん"。  "レジーナがいたから何とかなったものの、予定が丸潰れだ"。  "こうなったのはお前の責任"。  心ない言葉の数々。  そこに私への情は一切含まれてないと気づいた。  必要だったのは、公爵家を有利に出来る駒だっただけ。  さらに最悪だったのは、私が追いやられた部屋は屋敷の外れにあり、使用人たちが庭の隅で話す内緒話が、耳に入る位置だったという事。  そこで私は、(くだん)のメイドが脅されて私に薬液をかけたという事実を知った。  脅した相手は、今回美味しい地位を得たレジーナ──。  調査の過程で父はそれを知ったが、醜聞を恐れて揉み消したらしい。  起こったことは過ぎたこと。  今は王太子妃の地位を確保することが先決だと。  父が私を非情に責めたのは、責任転嫁して、自分の罪悪感を減らそうとしたのかも知れない。  メイドは本当に自害だったのか。 (もう誰も信じられない)  私は己の身の上を嘆き、激怒し、荒れに荒れた。  その結果、屋敷の者は私を敬遠して、今では運ばれてくる食事を細々と、ひとり食べる始末。  王太子殿下の婚約者として、華々しく社交界に出ているレジーナとは対照的に。 「悔しい、悔しい、悔しい……!」  本来その場所は、私のものになるはずだったのに!!  狭い部屋の壁に、私の涙が吸い込まれて、幾日が過ぎたのか。  ある日。 「その悔しさ、晴らしてみたいとは思わないか」  低い声が、私を誘った。
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