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「ラティミーナ嬢。今の強さで火魔法と風魔法を混ぜて放てば、そなたは間違いなく、この牢を構成するすべての障壁を跡形もなく消滅させられる。万が一、そなたがそなた自身の魔法の威力に耐えられず吹き飛びそうになったとしても、我が後ろで支えてやるから存分に力を発揮するがよい」
「はい、やってみます……!」
たった今教えられたことを、体の中で再現する。
魔力の強さ、流れ、属性の違う魔法の組み合わせ方――。かつて王宮魔導士に覚えの良さを恐れられたラティミーナは、自分がその特技を持っていることをありがたく思わずにはいられなかった。
「……――いきます!」
自身への掛け声で心を奮い立たせる。
深い集中。視覚、聴覚、嗅覚も触覚も、すべてが魔法のかなたに消え去ったかのような錯覚を覚える中、全身全霊で火魔法と風魔法を同時に放つ。
ドーム状の空間に、すさまじい音と熱風が渦巻く。
その衝撃に耐えきれなかったラティミーナが後ろに数歩よろめくと、ぐっと強く腰を支えられた。
おそるおそる、目を開く。
そこは、魔法牢に閉じ込められたときに立っていた広間の中心だった。
壁際に避難したパーティーの参加者たちが、おびえきった顔をしてラティミーナたちを見ている。
その手前では、王宮魔導士たちが青ざめた顔をしていた。
『せっかく完成させた魔法牢が……!』とつぶやきながら、次々と膝を突く。誰もが両手も床に突いて、がっくりとうなだれた。
落ち込むその姿からラティミーナが視線を外すと、ふと、ディネアック王子とモシェニネの寄り添う姿が目に映った。手に手を取り合い、目の前で起きたことが信じられないと言わんばかりに、そろってぽかんと口を開けている。
何と申し開きをすればいいのだろう――ラティミーナが言葉を探していると、不意に魔王が耳打ちをしてきた。
それは、とある魔法の出し方だった。
人間界には存在しない恐ろしい魔法が、魔界にはあるらしい――。ラティミーナは弾かれたように振りむくと、驚きを口にした。
「そのような魔法があるのですか……!?」
「ああ。楽しかろう? できそうか?」
「はい、やってみます!」
目を伏せ、腹の前で手のひらを上にして構える。
その手の中に軽く魔力を溜めて、親指で弾いて正面に飛ばす。
魔王から教えられた興味深い魔法の効果は、すぐに現れた。
「『なんで出てくんのよあの女! やっと全部うまくいったと思ったのに! 王妃になって贅沢ざんまいする予定が』……ぎゃっ!?」
モシェニネが、背中から踏みつけられたかのような悲鳴を上げながら両手で口を押さえる。ラティミーナが放ったのは、狙った相手の心の声を引き出す魔法だった。
また魔王が顔を近づけてきて、ラティミーナに小声で話しかけてくる。
「(上手だ、ラティミーナ嬢)」
「(ありがとうございます、ウィゾアルヴァールド様)」
小声で言葉を交わして、微笑みあう。
ラティミーナたちがほんわかとする一方で、モシェニネが顔を真っ赤にして金切り声を上げた。
「なに今の!? あんた一体、私に何したの!?」
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