第二話

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 王宮魔導師の号令が響いた次の瞬間、まばゆい光線が四方からラティミーナに向かって放たれた。 「ううっ……!」  ロッドから撃ち出された魔法の光がラティミーナの体に突き刺さる。ラティミーナを中心として、床に魔法陣が描かれていく。 (熱い……!)  全身を魔法でしばりあげられる苦しさに、必死に身をよじらせた。  魔力を抑えることばかり訓練させられてきたラティミーナは、魔法で攻撃されたときの対処法を教えられてはこなかった。  呪縛をふりほどくために手当たり次第に魔法を放ってしまっては、周囲にいる人たちにどんな影響を及ぼすか想像もつかない。 (牢に閉じ込められるなんて、絶対に嫌。でも……)  大勢の罪なき人々と、味方のいない自分とが、天秤に乗せられている。  いくら王宮魔導士といえども、もしもラティミーナが全力であらがえば、全員を一度に吹き飛ばすこともできるはずだ。しかし力を抑えずに放った魔法を制御する方法を、ラティミーナは知らなかった。  魔法の光を振りはらう動きを止めて、深くうなだれる。  抵抗をやめた途端、光の向こうからディネアック王子の高笑いが聞こえてきた。 「ふはははは! 牢から出られるようになるまで、せいぜいおとなしく過ごすのだな!」  徐々に強くなりゆく魔法の光と灼熱に、意識が飲み込まれていく。 (どうして私が、こんな目に遭わなければいけないの……?)  泣き出しそうになるも、ぐっと奥歯をかみしめて、反射的に心の揺れを抑えてしまう。 (こうして涙を我慢できるようになったことも、全部無駄だったのね)  そう胸の内にこぼしたところで、ラティミーナは気を失った。 「……。……はっ」  びくりと体を震わせながら、ラティミーナは目を開いた。  そこは、真っ暗闇――ではなく、わずかに紫がかった空間が広がっていた。  壁に囲まれているわけではなさそうだったが、濁った水を覗き込んだかのように、遠くを見渡すことができない。 「これが、魔法牢……――ひっ!?」  ラティミーナは全身に力が入っていないのに、それでも自分が立ち尽くしている理由に気づくと大きく震えあがった。  左右に引かれた両手首と、ドレスの下の両足首に、無数の細い帯が巻き付いている。その先端はまるで人間の手のように枝分かれしていて、こぶしに力を入れるかのように、ぎゅっとラティミーナをつかんでいた。  おぞましい光景を目の当たりにして、抑える必要のなくなった涙がにじみだしそうになる。しかし幼いころから我慢を強いられてきた涙は、そう簡単には浮かんではこなかった。  とはいえ恐怖を感じていることは確かで――ラティミーナはどうにか魔法の帯をふりほどこうと、がむしゃらに身をよじった。
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